Blood orange 2【Fischer's】【シルク】

第58話 やさしさ ページ11

｢き…着替えたよ！｣


そう言うと、

また、扉が開く。


そしたら、

まだ顔が赤いままのダーマさんが

ずかずかと入ってきて、


｢さっきは悪かった。｣


言ってから、


｢これ。｣


と、紙袋を差し出した。


｢なになに？｣


受け取ると、ずっしりと重み。

中を覗くと、本がたくさん入っている。


｢昨日言ってた本。読んでみたいって言ってたから、持ってきた。｣


それを早口に言い終わってから、


そんだけ。じゃ。


と、すぐに扉の方へ向かってしまう彼。


背中が、遠ざかる。


待ってという暇もない。

ありがとうという暇もない。


待って、待って…！


わたわたとしていたら、


彼は、


｢あ、そうだ。｣


振り返って。

雑に、片手をポケットに突っ込んでから、


｢今日、楽しんでこいよ。家で待ってっから。｣


と、少しだけ微笑む。


なんだか、胸がじーんとして、


｢うん。行ってくる。｣


自然と口が動いて、微笑んだ。


そして、満足そうな彼の顔が見えたかと思うと、


｢ん、じゃな。｣


声と共に、扉が閉じる。



また、静かになった部屋の中。



身体に響く鼓動は、はやくなっていった。

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