彼らとの毎日【短編集】【Fischer's】

☆パパになる 7【Silk】【＊☆明蛍☆＊さんリクエスト作品】 ページ24

涙が止まらなかった。

俺は彼女の玉のような汗をタオルで拭い続ける。

彼女が必死に力む。

そして、お腹の中の子は、彼女に合わせて出てこようとする。

俺は、

｢頑張れ、頑張れ！｣

と彼女に声を掛け続けた。



それから、完全に出てきた後の、弾けるような産声。



二度と忘れないだろう。

涙が、止まらなかった。

彼女のへとへとで力が無い微笑みも、嬉しそう。




俺は、生命の神秘を目の当たりにしたような気がした。

ただ、足が震えて、立っていることが精一杯だった。




看護師さんが、へその緒を切って毛布に包まれた赤ちゃんを彼女の頬の隣にそっと置く。

俺は二人を眺めて、なんとも言えない、心の奥底からあたたかくなるような、そんな感情を体験した。

彼女が赤ちゃんの頬に触れて、

｢…よかった。｣

と言う。

彼女の頬には、一筋の涙が伝っていた。

俺は頷いて、

｢A、ありがとう。｣

と微笑む。

彼女も汗だくのまま、

｢こちらこそ。｣

と微笑んだ。




その時の彼女が、どれほど美しかったことか。




Aと出会えて、

Aが妻になってくれて、

本当によかった。

本当に嬉しい。



心の底からそう思った。



それから、赤ちゃんを見る。

不思議なことに、俺にも彼女にも、似ているような感じがした。

俺がまじまじと見ていたからか、赤ちゃんはぴくりと動く。

それを見て、また頬が緩んだ。

それから、看護師さんに、

｢抱っこしますか？｣

と尋ねられ、俺は彼女を見る。

彼女は頷いた。

それを見てから、俺はしっかりと頷いた。

それから、看護師さんは赤ちゃんをそっと持ち上げて、俺に渡す。

俺の腕には、ふわりと赤ちゃんのあたたかさが伝わってきた。

俺はまた、涙ぐむ。


ただの重さとしては軽い、そして崩れてしまいそうなほど柔らかい。


だけど、生命の重み、屈強さをずっしりと両腕に感じた。

☆パパになる 8【Silk】【＊☆明蛍☆＊さんリクエスト作品】→←☆パパになる 6【Silk】【＊☆明蛍☆＊さんリクエスト作品】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す