もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ35)

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切れ散る縁。ページ35

「本当に覚えてないの？」

「だ、誰だお前は、私はお前みたいな人間は知らない！」

「酷いなあ、あの時一緒に逃げたのに。何でまた向こうに戻ったの？」

「知らない、私は何も知らない！カノンなんて知らない、向こうってどっちだ、私をあの地獄から形はどうあれ救ってくれたのは彼らなんだ！」

「…ふぅん。地獄かあ。私も痛かったよ、とっても痛かった。足を斬られた私を庇って一緒に逃げてきた事も忘れちゃったの？」

「知らない！私が目覚めた時既に私は一人だった！」

頭が混乱して上手く記憶を引き出せない。私は目覚めた時独りで、あの路地裏に、唯一の御守りのこの黒いサバイバルナイフだけ手にして居たはずなんだ。何故御守りなんだろう？なんで、私はこれを手放したくないんだろう？

「あ。そのサバイバルナイフ、まだ持ってたんだ。貴女のお父さんが特注した、世界にたった一つの…」

「五月蝿い！！五月蝿い煩いうるさい！私は私だ！Aだ！父親も母親も知らない、お前なんか知らない、私が知ってるのはクソみたいなこの世界と頭のおかしい仲間だけだ！これ以上変な事を言うな！」

無意識に、制御出来ずに私は拳銃の引き金を引く。撃ち出された弾は簡単に彼女の右腕を抉り取る。酷く頭痛がする。何度も何度も嗅ぎ慣れた鉄の匂いですら私の頭痛を加速させる。普段は好きな筈の赤色が嫌で嫌で堪らない。

「カノン、本当に覚えてないみたいだよ？」

「神様、＿＿＿ちゃんを元に戻す事は出来ないんですか？この子はきっとあいつらに洗脳されてるだけなんです。」

「んぅ？出来るけど。でもその為には一回ー、そのー。殺しちゃう必要があるかな、記憶を巻き戻すために。」
「あー、Aちゃん。早く立たないと殺されちゃうよ？かつての旧友のカノンちゃんに、一方的に、君が兵士にやってきたみたいに。どう足掻いても彼らは来ないし、殺らないと殺られちゃうよ？」

1体1、殺さないと殺される。まるで何時ぞやの戦いみたいに、殺されないと。私の居場所を作ってくれた彼に何か報いないと。

昔の記憶なんてどうでもいい。今更死んだ人間をどう言ったって戻らないのなら、私は…

「お前を、殺す。」

「＿＿＿ちゃん、本当に毒されたの？なら、助けなきゃ。昔私がしてもらったみたいに…」

死にたくないなら、殺すまでだ。戦争とは、そういうものであって人情を挟むべきではない…と。

私は勝利への手順が見えていた。彼女の動きは、あの頃の私と同じだったから。