もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ31)

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取消不可能。ページ31

彼は文字列の並ぶ紙をひらひらと自分の目の高さまで持っていって悪い笑顔を浮かべる。

「ほら、契約書だゾ？まさか読まずにサインする人間何て居ないだろう。」

「… は、あああああ！？騙したなっ！？」

「別に解放するから書けとは言ってないのだから騙してはないゾ。戦争が終わったらトン氏に提出するか。」

やらかした。これまでは口約束だったから何とでもなったのに。物的証拠まであったら本当にいよいよ逆らう手段が無くなる。
しかし。別にだからといって今の生活が変わる訳でも無いのだからまあいいか、と私は早々に諦めた。

「大人しいな狂犬。少し位噛み付いてくるものかと思ったが。」

「某方は噛み付いただけで撃ち殺す位なんですから命にはかえれませんよ。で、暇させないんですよね？」

「ん？ああ。勉強はもう終わりか？」

「“ 戦略 ” の勉強の時間にしようかなあ、と思いまして。」

彼の顔をのぞき込む。
多分私は酷く悪い笑顔をまた浮かべていることだろう。彼は一歩も動じず笑う。

「やはり見込んだ通りだ。それなら今回の戦局と共に教えてやろう。」

そう言って彼は実に楽しそうに解説を始めるのだった。

ふと窓を見た時にはもう日が落ちかかっている。赤い光が部屋に差し込んでいた。流石の総統サマもやり過ぎたと反省したのか勉強はここで切り上げられる。

晩御飯をと足を運んだ食堂は何時もの騒がしさもなく、ただグルッペンと私と休憩に入った大先生の三人しか居なかった。
何時もの様な取り合いもない静かな食事は寂しい。隊長やらんらんは今何をしているだろう。まだ戦っているのだろうか。それとも今は野営でもしているのだろうか。
何時も騒がしい大先生ですら黙って黙々と食べ進める。いそいそと食事を終えた彼は“ 後任せた” と食器の後片付けを押し付けて持ち場に戻っていった。
戦争中は多分ずっとこうやってみんな忙しそうに走っていくんだ、と考えると少し悲しくなった。