道筋と結論。 ページ23
今、彼は何と言ったか。
私が、この国のスパイだった？そんな馬鹿な。でも、たしかにこの傷は。
全くもって残酷な事実だと思う。悲しい話だ、いつものようにそんなデタラメ信じないぞって、うるせぇ殺すぞって、そう言えたらなんと良かったことか。
私がやってきたこれまでの行動は、結果的にかの国の内部崩壊を引き起こしていただけになる。結果的に人数を減らしていただけになる。
最初から私は彼らの味方をしていた事になる。
いや、いや。違う、それは違う。私は明確に奴らに刃を向けた、しっかりと、ちゃんと。でもそれはあいつらがそうだと分かってなかっただけであって、ああ、ああ。
「ほら、何か反論をしてみろ自称叛逆者。そんな顔をしても分からん。」
「いや、私は… わたし、は。昔の記憶が無い。」
「ほう。つまり？」
「私は、スパイ活動中に…記憶を失って、それで…？」
「疑問形にされても私にも分からん。兄さん、資料は合ったか？」
「あ、うん。合った。ちゃんと図書室にあって安心したよ。ええと…」
「じゃあ朗読は俺がしよう、さあ俺の朗読に」
「大先生、そういうの良いからさっさと読んで」
「… ____年、_月__日、スパイ活動の為の人間を選別。基準、今年12歳になる人間のうち覚えがいい者、聡明な者等。
同年_月__日、選定終了。収集者三十名。教育開始。
同年_月__日、教育終了間際。脱落者十四名。情報漏洩を防ぐ為斬首刑に処す。
同年_月__日、当人らの家族を斬首刑に処す。
…あ、ちょっと血がこびりついてる。やだなぁ。
年月は読めない。数名の脱落を確認。二名取り逃す。失念したが、一名は上記で精神を壊し一名は重症を負わせられた為、特段の報告は不要。かの名を見つけた場合、直ぐに処分する事。
…… カノン・シルヴァーナ、と。もう一つの名前は読めない。
この名前…カノンに聞き覚えはない？」
「カノン…？かのん… かのん… ゆう、じん…？…う。多分…私の友達…だと、思う。」
「友人、なら…ここの汚れてる部分の名前が恐らく君のだろうね。さ、て。本当に君が我が軍の、我が国のスパイである事がほぼ確定的になった。どうするの？Aちゃん。」
鬱大先生、と呼ばれたその人物は声色を変えずにそう言う。私がどうするか。
「私、は…」
ここまで聞いた話がフラッシュバックする。
“その怒りを、戦争にぶつけよう”
“我々と同じようなものだ”
“君はうちの国のスパイだった”
“___ちゃんは、そうなっても…私を助けるんだね”
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作者名：カナン | 作成日時：2017年9月10日 0時
