もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ16)

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嫌悪と服従。ページ16

同じ狂った者同士、と言った。私を狂兵と同じ類にされるのは不愉快きまわりない。私は生きる為に、この体も心も失わない様に選択した結果がこれなのだから。しかし今ここで反論するのは余り得策ではない。反論を飲み込んで、何故か動かない両足を訝しげに見つめる。

「…ああ、余り暴れられると困るので予めに少し切っておいた。心配しなくても治るから安心しろ。」

「は！？筋肉かなんか知らないけど歩けねぇじゃねぇか！」

「一ヶ月位で治る、心配するな。それにそのくらい動けないとわざわざ力任せの拘束の意味が無くなるからな。」

「…割れた窓ガラスのせいで寒い、主に傷口に染みるから寒い。具体的に言うと足が寒い。」

口から出るのは子供じみた駄々だけ。しかし私にはそれ位しか言う言葉が無かった。敗戦国の王様だなんだと言われたって結局は路地出身だから教養や知識なんてドブに捨てた様なもんだ。実際数学だなんだ、だとか学校に行った記憶なんて微塵もない。語彙力もない、無いものだらけだから。

「足を傷つけたのは私だし其処は謝罪してやろうと微粒子レベルで思っていたのだが、そもそも窓ガラスを割ったのは貴様だからな。精々布団に籠るがいい。」

容赦ない。容赦ないぞこの人間。まあ所詮敗戦国の民の末路なんてこんなものだろう。反論の言葉も浮かばず唇を噛むしかない。そこに扉の開く音がする。こんなタイミングで来るのは、私が本当に姫なのであれば王子が助けに来ることだろう。しかし、やはり。物事というのはそう簡単に運びはしないもので。

「総統！いくらなんでも敵国の狂犬を味方につけるのは賛成出来ません！危険すぎる！」

赤いマフラーのあいつが、医務室に踏み入るや開口一番にそう怒鳴った。橙色の“医務室では静かに”の声も呆気なく掻き消される。

「強いからいいではないか、それにもし反逆したとしても十対一だ、逃げ場もない犬を殺すなど簡単だろう書記長。」

その狂犬の目の前でそんな物騒な話をされるのも頭にくるが、私の人生を狂わせた奴二人目が来るなんて不幸が過ぎるだろう。しかし書記長、と言ったか。副総統？的な物でも無いのに大した物言いだな。

「しかし我が軍は最早壊滅状態、外から砲撃されれば簡単に」
「だからこそ面白いのではないか！」

声を張り上げる総統と明らかに諦めた様子の橙色、まずい、と言いたげな表情の書記長。そしてそれを訝しげに見つめる私は、次にこの男の真髄を知る事になる。