もう一つの夢物語【wr*wr*d!】 (ページ13)

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侮辱と再起。ページ13

「私は真剣なのに…」
彼女は彼に切っ先を向ける。ナイフじゃない、そんな小さいものじゃない両刀の刃が、その刃に付着した血が地下室の朧気な光を浴びて狂気的に輝く。
「真剣なのに…」
彼女はその笑顔を消し去る。彼は対照的に笑う。彼に向けて、走り出す。後ろの彼を顧みず、真っ直ぐに。持ち方を変えて、

片手で持ち手を、片手で…素手で刃を握る。

痛みなんて顧みずに瓦礫を飛び越え

「巫山戯んな！」

彼女は彼の頭上に向けて勢い良く弧を描き剣を振り下ろした。

… さて。飛びかかった彼女の腹に思い切り剣を突き出したらどうなるだろうか。

その助走は相当なものだろう。

剣の根本部分までしっかりと刺さる事だろう。貫通なんて当たり前のようなものだ。

彼は躱すこともなくただその剣を突き出した。
咄嗟に彼女は持ち方を変え切っ先を壁に向け思い切り突き刺す。壁にささったその剣で勢いを殺し止まり軌道を変えて彼を狙う。
…筈だった。幾ら彼女が軽くたってその助走と反動に耐えられることは無い。加えて剣なんてものは刺さった状態で横に力を入れると折れるように。ばきん、と嫌な音を立てて、彼女は勢いを殺せないまま辛うじて軌道を変えると、剣を構えた総統の横に右の肩から打ち付けられた。暫くそのまま転がって彼から5mほど離れたところでゆっくりと立ち上がる。

最悪のタイミングだったのだろうか。はたまた血のにじむ右肩、開いた昔の傷だろうか。

彼女はその右の壁に寄りかかって、拳銃を構える。
目が霞んできた。こんなの認めない。私は彼らに勝って旗をあげ、そして各国に宣戦布告するんだ。こんな所でこんなのに負けてたまるか。
宣戦布告して、それで近くの国を気の向くままになぎ倒して。
… 嫌だ、まだ死にたくないよ。こんな所で倒れたら、私が生きてきた意味がない。こんな簡単に倒れたくはない。

発砲音と共に放たれた弾は見当違いの方向に飛んでいった。
黒い影が近づく。この距離なら外さない。からの薬莢がからんと床に落ちる。しかし、彼女の拳銃が彼に向くことは無いだろう。

緑髪の彼が呼んだ援軍、その中に紛れていた人間が睡眠薬の入った注射器を彼女に打ったから。
元々意識がはっきりしなかった彼女の体はいとも簡単にその力を手から離し。

片手に剣を握り、片手に銃を握った敵国総統は。その剣を振りかぶって、彼女の体に突き刺した。