05-大好きな仕事 ページ5
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あの日の私の気分は最高潮だった。
お客様第一号を筆頭に、続々とケーキは売れた。
ケーキが売れる様子や、ケーキを食べて笑顔になる様子を、幸せいっぱいに満たされながら眺めた。
家に帰ると、今日はソファに倒れ込むことなく、余裕を持って座る。
(今日、初めて私が作ったケーキが売れたんだ)
なんて、普通の夫婦ならそんなふうに話したりするんだろうか。今日あった出来事とか、そんな些細な雑談を。で、妻の話を聞いた夫は自分のように喜んでくれてたりして。
私には決して掴み取ることのできない、普通の日常。
顔も知らない夫が、何故かちょっと恋しくなった。
好かれなくっても構わないから。
ただちょっと、話をしてみたい。
その日にあった出来事を共有するような、友達くらいの関係にはなりたい。
__そう思い続けて、既に半年が経ってしまっていた。
結婚から半年経過しても夫とは他人のまま。
会うことすらなく、契約上の関係。
ケーキのことで浮き足立っていた気持ちが、急激に萎んでいく。
家にいると嫌でも冷えた現実を突きつけられた。
私がどう足掻いたって、この現実は変わらない。
大丈夫、もう少しの辛抱だ。
私には大好きな仕事がある。
……私には仕事しか、ない。
「今日も美味しかったよ」
「ふふ、ありがとうございます」
あの日以来、お客様第一号の彼は週に何度か来てくれるようになった。そして、私が作ったケーキをイートインスペースで食べて行く。トレイを返却しに来る時に軽い雑談をするのが恒例となっていた。
「今日は夕方から雨が降るみたいですけど、お客様は傘を持ってきましたか?」
「別に僕は……、いや、うん持ってきたから大丈夫」
「よかったですー。実は私、朝ちょっと寝過ごしちゃってバタバタしてたので、持ってくるの忘れてしまって」
「そうなの?」
彼は考え込む素振りを見せる。
「私が帰宅する頃まで、降らなければいいんですけど」
「……、じゃあ、もし降ったら僕が送って行こうか?」
「え?いえいえ!お客様にそんな負担をかけるわけにはいかないので……!」
「いつも美味しいケーキを作ってくれる御礼に」
「そんな、こちらこそ食べてくださってるだけで有り難いですよ」
お気持ちだけ頂きますね、と丁重にお断りすれば、「……一筋縄じゃいかないか」とぽつりと何か呟いたが、小さすぎてよく聞こえなかった。
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1 - ぱぅちさんの作品見たんですが今ハマってしまいました😁これからも他の作品を頑張ってください🙏👍 (11月4日 17時) (レス) @page37 id: 053afa639a (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最近呪術廻戦の夢小説にハマったのですが、このお話、めっちゃ好きです!!ありがとうございました!! (6月30日 17時) (レス) @page36 id: c2b1544657 (このIDを非表示/違反報告)
赤の黒犬 - 良い感じにお互いがすれ違っていて凄く素敵なストーリー構成でした! 恋をした所の描写を丁寧に書く事で読む内にどんどん世界観に引き込まれていきました。とても綺麗なお話をありがとうございました! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 22cb640d25 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ふぅさん» 今作では五条さんの一生懸命な片思いを描けたかなと思います!笑 こちらこそ、最後までお読みくださりありがとうございました…!😭☺️ (2022年1月1日 16時) (レス) id: 311247fabe (このIDを非表示/違反報告)
ふぅ(プロフ) - 完結、お疲れ様でした。ずっと柔らかい雰囲気でとても好きなお話です。次回作も楽しみにしています! (2021年12月23日 23時) (レス) @page37 id: 56676c275e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年7月31日 22時