21-離さないで欲しかった ページ21
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観ることにしたのは、洋画のラブストーリーだった。
引き込まれるストーリーに、感情移入できる繊細な心理描写、そして画面を彩る俳優や女優の表情。
恋人同士だった主人公とヒロインが一度別れを選ぶ中盤のシーンでは、思わず涙してしまった。
その際に繋いだままだった悟さんの手が離れた。
え、と思わず彼の方を見る。
彼はスクリーンの方を向いたまま、何も言わずに白いハンカチを差し出してきた。
悟さんにだけ聞こえる声量で「ありがとうございます」と御礼を言い、ハンカチを受け取って涙を拭った。
涙を拭い終えても、ハンカチを手離せなかった。
ハンカチを手離してしまったら、手をどこに戻せばいいか分からなかったから。
もう一度繋ぐ勇気なんてなかった、
でも悟さんの温もりが消えた手は妙に寂しかった。
膝の上でハンカチを握り締めて、エンドロールまで見届けた。
「恋愛もの観るの久しぶりだったけど、中々面白かったなー」
「最初は結構コミカルに進んでいきましたけど、切ないシーンも多かったですよね」
「A、泣いてたもんね」
「お恥ずかしながら……。あ、ハンカチは洗って返しますね」
映画館を出て、並木道を歩く。
悟さんは「返さなくていいよ」と軽い調子で答えた。
「いや、でも」
「元々あげるつもりだったから」
「え?」
「Aに似合うと思って買ったの、だからプレゼント」
「、…」
白いレースのハンカチ。
豪華さはないけれど、シンプルで上品さがあって。
悟さんには、私がそう見えてるの?
人通りの少ないところでふと足を止める。
「A?」
悟さんも数歩手前で立ち止まって振り返る。
ハンカチが私宛のものだと知ったら、胸がドキドキして堪らなくて。
好きで、好きでどうしようもなくて。
だめ、
これ以上好きになっちゃだめ。
本当は、今日、
来るべきではなかったんだ。
「……さっきの話の続きをしようか」
「続き?」
先に静寂を破ったのは悟さんだった。
柔らかに緩めた口元で続ける。
「Aは僕のこと好き?」
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1 - ぱぅちさんの作品見たんですが今ハマってしまいました😁これからも他の作品を頑張ってください🙏👍 (11月4日 17時) (レス) @page37 id: 053afa639a (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最近呪術廻戦の夢小説にハマったのですが、このお話、めっちゃ好きです!!ありがとうございました!! (6月30日 17時) (レス) @page36 id: c2b1544657 (このIDを非表示/違反報告)
赤の黒犬 - 良い感じにお互いがすれ違っていて凄く素敵なストーリー構成でした! 恋をした所の描写を丁寧に書く事で読む内にどんどん世界観に引き込まれていきました。とても綺麗なお話をありがとうございました! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 22cb640d25 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - ふぅさん» 今作では五条さんの一生懸命な片思いを描けたかなと思います!笑 こちらこそ、最後までお読みくださりありがとうございました…!😭☺️ (2022年1月1日 16時) (レス) id: 311247fabe (このIDを非表示/違反報告)
ふぅ(プロフ) - 完結、お疲れ様でした。ずっと柔らかい雰囲気でとても好きなお話です。次回作も楽しみにしています! (2021年12月23日 23時) (レス) @page37 id: 56676c275e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2021年7月31日 22時