35-デート開始 ページ35
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身嗜みを整えて現れたAは「ペンギンさんからお小遣い頂いたんですよ」と数枚の札を見せびらかす。大した額ではないが、彼女は嬉しそうにしていた。
「そりゃよかったな」
「はい!これで美味しいもの買いたいなーって思いまして。あ、そうだ、日頃の御礼としてローさんに奢っちゃいますね!」
「別にいい。食には興味無い」
「えー、そんなこと言わずに」
「人から貰った金で奢るも何もねーだろ」
正論をくらったAは拗ねたように唇を尖らせ、「意地悪ばかり言わないでくださいよー」と言う。
こいつに一泡吹かせるのは正直気分が良い。
頬をが緩みそうになるのを隠すように前を歩き、「ついてこねーと置いてくぞ」とまたAの嫌がる意地悪を言った。
後ろから慌てたような足音が近づいてきて、隣に並んだ。
「あ。ローさん、そういえばシャチさん達何か言ってました?」
「シャチ達?」
「……いえ、やっぱなんでもないです」
何もなかったみたいに「今日は風が涼しいですねー」と靡く髪の毛を片手で抑える横顔をちらりと見つめる。いつもより控えめな笑顔が、妙に落ち着いた雰囲気を際立たせていて。
おれの視線に気づいたAと目が合うと、柄にもなく焦って、顔を背けて帽子を被り直す。
Aといると生じる慣れないこの感情。
…….これは、
この感情は、やはり______。
手配書で顔が割れているおれと、ハートの海賊団の白いツナギを着ているA。
街を歩いていると感じる、好奇の目に彼女は気づいているだろうか。きっと、気づいている。
海賊の仲間だと思われて、Aはどう思っている?
「……A」
「はい」
______もし、
このままずっとおれの船にいろと言ったら、
お前は、……。
言おうと決意した時。
故郷に早く帰りたいと切に訴える彼女の姿が蘇って。
ハッと息が詰まるような感覚がした。
開きかけた口を閉じ、喉まで出かかった言葉を別のものに変えて、再度口を開く。
「本屋、寄るけど」
「了解です!」
癖なのか、過去にも何度か見た敬礼ポーズを決める。
故郷が大切な気持ちはわかる。
だから軽率に帰るなとは言えない。
ここにいろとは言えない。
芽生えかけた感情を、認めるわけにはいかない。
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ぱぅち(プロフ) - kiさん» わわ、ありがとうございます…!コメント頂けて本当に嬉しいです(^ ^)続編ではどんどん種明かしして参りますので…笑 続編でもよろしくお願い致します…( ; ; ) (2020年4月5日 11時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
ki(プロフ) - とても良くて思わず、初めて感想を書いてみようと思うほどでした。最後のシーンに驚きすぎて続編が楽しみです!無理せずに頑張ってください。ワクワクしながら待っています! (2020年4月1日 3時) (レス) id: d59bd8fff6 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 紗さん» あたたかいお言葉ありがとうございます…!( ; ; )まだまだ未熟ですが、文章を褒めてくださると本当に嬉しいです!続編も頑張ります! (2020年2月4日 21時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
紗(プロフ) - 第一章おつかれさまでした!!表現の仕方とか素敵でとても好きです!更新ゆっくりでいいので、楽しみに待ってます! (2020年2月1日 18時) (レス) id: d2cf8ed97e (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 氷屋さん» コメントありがとうございます!ほんとに些細な描写が繋がっていったりするので、気がついてもらえるととても嬉しいです(^^) これからも不器用なローさんを描いていこうと思います!頑張ります! (2020年1月22日 22時) (レス) id: 755637e22b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱぅち | 作成日時:2019年9月28日 18時