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｢よく寝てるし……大丈夫よね｣
あれから数日後､母親はそう呟いて買い物のため出かけていった｡昼寝中のAを置いて｡
スヤスヤと気持ちよさそうに眠る彼女を起こしてしまうのはあまりにも心苦しかったのだ｡
これだけぐっすり眠っているなら､今までの経験上もう1時間は起きない｡それにこうして何度か留守番させたことはあったが､特に何も起こらなかった｡
だからきっと大丈夫だと､そう思っていたのだ｡
しかし母親の予想よりも遥かに早く目を覚ましてしまった｡
｢あれ……ママ……?｣
キョロキョロと辺りを探すも､誰もいないらしい｡
寝ぼけ眼をこすりながらぼけっとしていると､玄関の方からノック音が聞こえてきた｡
ママ?
そう思ってドアをそっと開けてみると､そこにいたのは見知らぬ男性だった｡
｢こんにちは､Aちゃん｣
｢おじさん､だあれ?何でAのお名前知ってるの?｣
｢おじさんはね､Aちゃんのお父さんと一緒に働いてるんだよ｡君のお母さんに頼まれて君を迎えにきたんだ｣
｢ママに?｣
頷いた男性を見て信用しきったAは､言われるがまま彼の手をすんなり取ってしまった｡テクテクと後をついていき､そして｡
｢はあ……やっぱりか……｣
｢大丈夫か､A｣
｢うん……ごめんね｣
｢気にするな｣
深くついたため息がAに重くのしかかる｡思いつめた表情は笑ってしまいそうなくらい彼女に似合っていなかった｡
｢何で忘れてたんだろう､私｣
忘れたくて忘れられるような､そんな簡単な記憶ではないはずだけど｡
再びため息をついたが何も変わらなかった｡
｢なあ､A｣
｢何?｣
｢どうするつもりだ?……これから｣
その問いに少し黙ると､Aは笑う｡その笑顔は無理やり作られたように歪んでいた｡
｢実はね､もう決めてあるの｡……きっと､そういうことだから｣
｢……そうか｣
Aはふっと顔を上げると､ベッドから見える窓の向こうを何とも言えない顔で見上げる｡
朝は清々しいくらいの晴天だったのに､今やどんよりとした雲が空一面を覆っていた｡
美しいスカイブルーは､すっかり姿を消しているのだった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2020年2月15日 16時
