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｢我々はそろそろお暇することにしましょう｡あまり長居するのも､申し訳ないですから｣
まったく申し訳なさそうに見えない表情でそう言うと､スッと立ち上がった｡
｢帰るぞ､ハット｣
｢……はい､ボス｣
ハットは帽子を少しだけおさえて顔を隠すと､同じように立ち上がった｡
｢そうそう､最後に｣
ドンはふと思い出したかのように呟くと､座ったままのAを見下ろして衝撃的なことを告げた｡
｢Aちゃん､君はどうやら勘違いをしているようだ｡君の父親も母親も君を嫌ってなんかない｡むしろ大切に思っていたよ｣
｢……は｣
言われた内容をうまく理解できず情けない声をこぼした彼女にかまうことなくドンは去ろうとする｡それを引き止めるべくAは慌ててドンの前に立ちはだかった｡
｢待ってくださいっ!どういうことですか!?だってあんなに邪魔だって……あんたなんていなければよかったのにって言ってたのに!大切だったなんて､そんなわけない!｣
大声で喚くAに対して､ドンは初めて彼女の目線までしゃがみこんだ｡
｢それはね､Aちゃんを守るためだったんだよ｣
｢Aを､守る?｣
｢そう｡君が辛かったことを思い出さないように､敢えてキツくあたっていたんだ｡また同じような目に遭いそうになった時､自分たちのことを切り捨てられるようにね｣
ぐらりと､Aの中で何かが揺らいだ気がした｡
頭の奥で､南京錠がガチャガチャと音を立てる｡
思い出せ｡
そう言われているみたいだった｡
｢2人共､辛そうだったよ｡父親の話によると､母親は毎晩泣いていたらしい｡それでも君のためを思って､どんなに心が傷んでも突き放すように接したんだ｣
それを聞いた途端､ガクンと力が抜けてしまった｡
床にペタンと座りこんだ彼女だったが､そんなことを気にしている余裕などなかった｡
｢……Aのせいだ｣
全部､何もかもがAのせい｡
ママが泣いてたのも､パパが怒ってたのも､全部全部｡
私のせいだ｡
｢ごめんなさい､ママ､パパ､ごめんなさいごめんなさいごめんなさい､Aのせいで､私のせいでっ……!｣
いつかのようにパニックを引き起こして､Aはぶつぶつと謝罪を唱え続ける｡そして突然､プツンと電源の切れたおもちゃのようにしゃべらなくなると､そのまま倒れこんでしまった｡
｢A!｣
名前を呼ぶ声は何故か2人分だった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2020年2月15日 16時
