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｢1本足らないのではないか?｣
後ろからそう言われ、Aはへ?という気の抜けた声を上げた｡
後ろを振り返ってみると、笹川が風呂から上がってAの頭上からプリントを覗きこんでいた｡
｢ここだ｣
指さされたところを見てみるが、おかしなところは見当たらない｡
｢どこ?｣
｢ほら、『重』の2画目が抜けているぞ｣
言われてみればたしかに横線が1本足りていなかった｡
｢本当だ、全然気づかなかった……ありがとう、笹川さん｣
Aは消しゴムで紙をこすり、ささっとその場所を直すと鉛筆を置いた｡
やりきったプリントは翌日獄寺に提出し、丸をつけてAに返される｡獄寺があまりに忙しい日や出張に行ってしまう時は後でまとめて出すと2人の間で決めてあった｡しかし今のところそのルールが適用されたことはない｡
｢終わったか?ならいつものを頼むぞ｣
｢はーい｣
机を手早く片付けると、笹川のもとへ急ぐ｡
そしてピョコンと笹川の背中に乗った｡
｢では始めるぞ!｣
1! 2! 3! ……とかけ声と共に笹川は腕立て伏せを始めた｡Aが乗ることで負荷がかかり、筋トレの質が上がるらしい｡
今でこそすんなりと背中に乗るようになったAだが、最初はめちゃくちゃ拒否していた｡笹川がAにちゃんとメカニズムを話さなかったからだ｡
頼む!
嫌です!
このやりとりの永遠ループでとうとう隣室からうるさいと苦情がきた｡
笹川の説明と説得により今の状態にもってくることができた｡
Aはあと何回で終わるか聞かない｡とてつもない数字が返ってくるのは把握済みだ｡
｢笹川さん、そろそろ寝ましょうよ｣
｢もう眠くなったか?｣
あまり眠くなくても肯定しておかないと、もうしばらく筋トレが続くことも分かっている｡
Aが首を縦に動かすと、笹川は彼女を抱き上げベッドに向かった｡
ツナのベッドにはかなわないが、布団が柔らかくて寝心地がいいという点では引けをとらない｡
お腹を一定のリズムで優しく叩かれると、眠気なんかあっという間にやってきた｡
｢おやすみなさい、笹川さん……｣
｢ああ｣
笹川のおやすみという声はもうAには届かなかった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年5月27日 19時
