2話 ページ2
家の前の桜が満開になり花見のシーズンを迎えた頃、私の15歳の誕生日がやってきた。そういえば、忍術学園で最後の年を過ごした時も15歳だった。学校生活を送りつつも既に"大人"として戦場に送られていた500年前。
それが今じゃ、世間から見たらやっと義務教育を終えたばかりのただの子供。時の流れはあまりに大きく、でも、子供が平和を享受できるようになったことに安堵する。
ある程度高いレベルの都立高校に合格し、今日はその入学式。出席番号順にあてがわれた私の席は、クラスの後ろの窓際という、麗かな春の陽気に敗北を喫すること必至な席。早々と席に座り頬杖をつきながら、横目でクラスの様子を探ってみる。
見るからにガチガチに緊張しているクラスメート達がなんとも可愛らしくて、思わず笑みが溢れた。
昔は15歳ながらに血生臭い場所で、自分達より年齢が上な人間と対等に向き合っていた。そんな私が、今更同い年の人間に人見知りするわけもなく。
担任になる男性が入ってきて、私たち一人一人に恒例の自己紹介を促した。一人でも多くクラスメートの顔と名前を覚えようと周りが躍起になっている中、私は窓から校庭をぼんやりと眺めていた。
どうせ今全員の顔と名前を一致させようとしたって無理なのだ。私は人の名前を覚えるのが苦手だから尚更。それなら最初から、無駄な労力は使わないに越したことはない。
どうせなら初日からこの麗らかな陽気に身を任せてしまおうと机に突っ伏した時、
「斎藤です」
聞き覚えのある声がした。
深く低く、到底同い年には聞こえない声がした。
聞いているととてと心地よくて、なぜだか安心する声がした。
伏せていた顔をバッと上げて、前の方の席で自己紹介をしている男に目を向けた。
全く変わっていない目の下のくっきりとした隈、どう見たって15歳には見えない老け顔。
髪は昔より短くなっていたけれど、名前も変わってしまっていたけれど、今私の視界には、見間違えるわけもない、『潮江文次郎』が立っていた。
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作者名:くろひー | 作成日時:2021年3月30日 0時