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物心がついた時には、既に私には前世の記憶というものがあった。
いや、恐らく生まれた時から、私はその懐かしい思い出と共に生きてきたんだろう。うんと小さい時、私が文次郎の名前をひたすら呼んで泣いていたとお母さんが言っていた(勿論お母さんは文次郎が誰かなんて知らないから不思議がっていたけど)。
忍装束に身を包んで学園内を駆け回った遠い日々。
「生まれ変わったんだよなー…」
よくよく思い返すと、本当にむちゃくちゃな連中だった。
歩いたらすぐ穴に落ちるし池に落ちて風邪ひくし、不安委員長なんて呼ばれていた善法寺伊作。
寝ると戦いの夢ばっか見て周りの人を蹴りまくって、伊作の不運に巻き込まれてた食満留三郎。
学園一無口で、笑ったら(怒ったら)6年生総出でも取り押さえられないくらい暴れる中在家長次。
いっつもイケイケどんどんで塹壕掘りまくって走り回ってアタックしまくりだった体力バカ、七松小平太。
ドSで鬼畜で逆らったら何されるか分からない魔王様な6年最強立花仙蔵。
そして、自称学園一忍者してる男で鍛錬バカで無駄にギンギンで目の下クマばっかりの地獄の会計委員長、潮江文次郎。
あの頃の自分は、本当こんな無茶苦茶な奴ら相手に6年間よくやっていたものだ。
本当にバカみたいな奴らだったけど、みんな優秀な忍びだった。そのくせ、みんなみんな私より先に逝ってしまった。先に逝った罪滅ぼしとして、せめて私が転生するまで待っててくれればいいのに。あの甲斐性無し達。
「会いたいなー…」
何度も振り回されたけど、何度も喧嘩したけど、何度も泣かされたけど、一緒にいたことを後悔したことなんて一度もなかった。それだけ好きだったのだ、私は、あの連中が。
誰よりも優しかった伊作が、誰よりも後輩想いだった留三郎が、誰よりも気遣いのできる長次が、誰よりも明るい小平太が、誰よりも冷静だった仙蔵が、誰よりも努力家だった文次郎が。
私は大好きだった。
いくら上を向いても涙は止まってくれなくて、仕方ないなら私は泣き止むことを放棄して、年甲斐もなく声をあげて泣いた。
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作者名:くろひー | 作成日時:2021年3月30日 0時