訶遇突智 ページ1
受け止めきれない。
まず何より先にそれしか出てこなかった。思考が追い付かない。
首の後ろを焦がしそうな太陽の感覚が、これは現実である、と告げている。
恐る恐る体を確認すると、小さく丸みを帯びたU字…おっと失礼、手のひらが見えた。
褐色のやたらと細い四肢、光が反射してキラキラと輝く銀髪。粗末な服とも言えない布。
何となく理解してしまった。私は多分、親に捨てられている。
新たに与えられてしまった幼い体と、不相応で似つかわしくない精神を抱えて、呆然としたまま、漠然と歩く。
いつまでそうしていたのかは知れない。けれどいつのまにか目の前に、少なくとも人ではない誰かが浮いていた。
「…だれ、ですか」
聞いたら殺されるかもしれない。そう考えたけれど、恐ろしくはなかった。どうせその内消える命だと思っていたから。
『ほう。小娘、人を敬うということは知っているようだ。だが、あと一歩だな。そちらから名を名乗れ』
まさかこちらの名を聞かれるとは思っていなかった。
そうだ。私は名前を知らない。『私』の記憶があった時とは違う。これは私であって私じゃない。
「…ごめんなさい。私、なまえが分からない」
『捨て子か?』
「…うん、多分」
『…そうか。ならばウチへ来い。斗流を教えてやろう』
「ひき、つぼし?」
『血を操り、己の力とするのだ』
よく分からないけれど、ヒトのやっていい範疇のことじゃない。それだけは分かった。
まあだからって、いや、だからこそ。
「…やる。それやれば、生きられる?」
『ああ、強くなれる』
「うん、分かった。やる。…ねえ、私に名前をつけて」
『…いつかな、小娘』
「じゃあ、名前教えて」
『…裸獣汁外衛賤厳。師匠と呼べ』
「分かった、師匠」
前世を失って、今世で不思議な力を得ることになった、私の数奇な人生の始まった日だった。
4人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふーちゃん(プロフ) - 待って普通に好き、更新頑張ってください (2021年6月24日 14時) (レス) id: 9172c0bbed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:くだら | 作成日時:2017年10月29日 22時