万里の時を駆ける4[Dr.STONE] (ページ21)

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新しい人をページ21

「うん。じゃあまず訊くけど……」

「うん」

ラボに戻った私達は、その奥の隅っこに座り込んだ。

床はきちんと石造りで、タイル張りになっていた。
タイルを凝視して、ムラを探してはなぞるを繰り返していた時に、ゲンが問いかけてきた。

「Aちゃんは、あそこで、誰の像を壊そうとしてたの？」

ゆっくりと、私に言い聞かせるように話すゲン。彼は私と50センチほど離れたところでにこにことしている。

「わたしは、あそこで、母さんの、像を壊そうとしていた」

だから同じ返し方をした。はきはきと喋るのは、なんだか疲れる。
それに別に、壊そうとした訳じゃない。あの声。あれが事の発端だ。

ゲンは眉ひとつ動かさずに、なるほどね、と答えた。

「じゃあな～んで、お母さんの像を壊そうとしたの？お母さんが嫌い？」

「………………嫌い？」

私は、ゲンの顔を睨んだ。

ずいと近づき、その顔をまじまじと見る。

「あの人への感情は、嫌いという言葉で片付けていいものじゃない」

「なんでそう思うようになったの？」ゲンが被せるようにして訊いてきた。

ゲンのこの、お前の物言いなんて興味ないとでも言うかのような返し方。
苛立ちを覚えたはずが、どこか毒気を抜かれてしまった。

私は小さく息を吐き、もとの位置に座る。

「……………親が離婚した。母さんがその時に、私を引き取った」

上の天井をぼうっと眺めながら、言葉を絞り出した。

「でも母さんは………子供にしてやること、何一つやってくれなかった」私は顔を、膝にうずめた。

それはおもちゃを買ってくれないだとか、遊びに連れていってくれないとか、そんなものではなかった。

何もしない。

母さんは何もしなかった。

インスタント食品だけは与えてくれた。

でも、それだけだ。

「だからなんで私をわざわざ引き取ったんだろうって、その時は分かんなかった。離婚してすぐ後に、母さんは新しい人を連れてきた」

＊＊＊＊＊＊＊＊

「新しいお父さんよ、A。挨拶しなさい」

母さんは、横で腕を組んでいる男の方を向いた。

「だ、誰？」

当時まだ八歳の私は、状況を飲み込めていなかった。男が前に出た。

「氷室(ひむろ)恭介(きょうすけ)だ。話は恵里(えり)から聞いてる」

「え、あの、」

「君は、俺の娘だよ」男が目を細めた。

”俺の娘だよ”

その一言が、肋骨の中に低く、こだました。