恐怖、トラウマ。 ページ13
部長達が出た後、私はあの場所に散歩に向かった。
森というのは、動きにくい。滑ってしまいそうな落ち葉に、踏んづけるとかなり痛い小石。
辺り一面の深緑の匂いにさらされ、少し寒くなったかな、と感じる。特に温暖化とかしてる訳じゃないから、普通はこの時期寒いんだな。
奥に進むと、さらに緑が強調されて、ざわざわとした葉の音が内緒話のように流れてきた。
もうすぐだ、と思った。
━━あの繁茂するツユクサの花は、まだ咲いていた。
その隣に鎮座する━━石像。
「………………」
私はそれを見下ろした。
ベンチか何かに座っていたのだろうか。石像は無邪気に笑った顔で、こちらを見返してきた。
隣に座って、笑顔を作った。
「最近、母さんが夢に出てくるんだ。懐かしいね」
独り言でも言って、吐き出そうとした。黒く渦巻いている何かを。
それはなんだか、喉に詰まっているようだった。大きな大きなわだかまり。
でもよかった。石像ならまだ、見ただけで襲いかかることはないと思うし。
多分。
「……………」もちろん、返事はない。
「………にしても、本当に静かだ」
皆はいない。私ひとり。
風が、葉っぱを洗い流すように吹き抜けてきた。頬が痛い。
「……私、何でこんなもの持ってきたんだろう」
脇に置いた石器を、ぎゅっと握り締めた。
とても頑丈で、硬い。
これで石像を殴ったら、どうなるだろうか。
〈壊さないの?〉
「…………え」
〈壊したら、復讐になるのに〉
どくんと、心臓が跳ねた。気温が下がったような気がする。
……………誰?
もしかして、私……?
〈あんなに私を、
叩いて、蹴って、蔑ろにして。
覚えてる?遊びに行った後に、怒られて日付が変わるまで家に入れなかったの〉
"私"は語りかける。身体が、奇妙な寒気にがちがちと震えている。
いつの間にか、怖くてたまらない。
〈私があの女のやらない家事をやってるところで、あんたなんか生まなければよかった、さっさと死んじまえなんて、よく言われたものね〉
〈あの女を許すなんて、有り得ない〉
「………!」
壊そう?”私”が言う。
壊そう?
壊そう??
壊せ
壊せ壊せ
壊せ!!
「…………ひっ!!」
恐怖だった。
恐怖は人を、異常な行動へと惑わせる。
訳も分からず、がむしゃらに石器を掴み、思い切り振り上げる。
刹那、その女の腕に、石器が落とされた━━━。
119人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Moon(プロフ) - こんにちは(*ˊᵕˋ*)コメント失礼します🙇♀️とても、続きが気になるのでよろしくお願いします。m(_ _)m (4月24日 22時) (レス) @page27 id: b2ea47ad96 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:長庚 | 作成日時:2023年12月26日 8時