ポケモン本部【あの空の先で】 (ページ23)

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「優しいやつはまずそんな相手を傷つけるような伝え方はしてこない……と思うのが俺流だ。まだこの会話続ける気か？」
「このピカチュウのせいで、これから俺たちは振り回されるんだぜ。あーあ。かわいそう」
「えーと……？」

「お前の兄さんも、お前が変なことしなきゃ今頃立派な救助隊だったろうなあ」

　その瞬間、ライの時間がピシッと止まった。──兄さん。空の地震で死んでしまった、家族の一人。お兄ちゃん。
　なんでこのマニューラがそれを知ってるのか分からないが、それを冷静に聞き返す余裕が脳内に無かった。名前のない感情がセメントみたいに頭の中へ流れてきたような気がして、嫌だった。クラクラする。
　ライが思考停止した瞬間、ムラサメはマニューラの首を瞬きよりも速く掴みかかり背後の壁に叩き付けていた。その激しい音に周りのポケモン達が小さく悲鳴を上げこちらを凝視する。

「今の言葉、取り消せよ」
「何マジになってんの？ぷ、これぞまさにお兄ちゃん面だな？」
「大切な誰かの面影で、相手を傷付けるな。取り消せ」

　ムラサメはライのお兄さんなんて勿論知らない。だがマニューラがその名前でライを貶した時、ライの反応を見て、ムラサメは動けなかったライの変わりに飛び出した。
　コラッタが「ふ、2人とも落ち着いてくださいよお！」と周りのポケモンの目を気にしながら制止に入った。

「取り消せ！」
「はっ、こいつ実はそーとー悪いピカチュウなのかもしれねえんだぜ？聞けよ、こいつ昨日ハイドのやつと親しげに話してたらしいぜ。最近あのサーズと繋がりがあるかもだとか、空の地震についてしってるかも知れねえだとか、あの空の彼方から来ただとか言われてる怪しいあのハイドとな！」

　ライはえええ！と思考がバチッと戻るのを感じた。確かにハイドとは話したが、そこまで危ないポケモンとは思ってなかったし、なんなら今も思ってない。強い力を有した、扱いにくい性格とは思ったが─────。
『当ててみて』───あの顔が、脳裏から焼き付いて離れない限り。ライの中の彼は、悪者ではない。

「今の流れでなんで突然ハイドが出てくるんだよ、バカが」
　若干言葉が強くなったムラサメがマニューラをさらに強く締め上げる。コラッタが「ひえ、ほらやっぱり締め上げてるし」とぼやくがもうそれどころじゃない。