03：名前 ページ9
彼女はよく「お腹が空いたあ」と言った。そんなの俺もだよと男の子はむっと眉を寄せる。
すると「あなたとお揃いなら、お腹が空いてても我慢するわ」と笑うのだ。
それってわざと？ と聞けば、あら、なんのこと？ といたずらっ子の笑顔を見せた。ああ。悪い女だ──そう思った。
手伝ってと言われたが、さて、どう手伝ってやればいいのかと彼は頭が痛い思いに駆られる。ここから簡単に出れるなら苦労はしてないのが事実なのだ。
近くに海もある。彼女のように何かの荷物に紛れればもしかしたら抜けることは出来るかもしれない。監視の目は厳しいが、不可能かと言われたら出来る可能性はあると言える。
だが、抜けたあとは？ 外の世界には今まで人で無かったものを受け入れてくれる所があるなんて思えなかった。ここで過ごして、自分自身ももはや普通の人間と言われる感性が朧気になりつつある。──知らない。知らないのだ。それを教えてもらえたら。優しい誰かの庇護の元で痛みも空腹もない普通の人間を教えてもらえたら──そう夢にも見たが、叶わない。それが例え、世の中では当たり前であったとしても。
「船が来たら、乗せてもらおうかなあ」
乗せてもらう、それは頼み込んでということだろうか？
「絶対やめた方がいいと思うけど」
「あら、どうして？」
少し自分より長く生きてるくせに、わかんないなんて馬鹿だなって笑い返してやれば彼女はちょっとむっとしたが「ボク、大人ぶっちゃって」と余裕をもって言い返すのだ。
「わからないから教えて欲しいわ」
「女を無条件で船に乗せるやつに、良い奴なんているわけないだろ」
絶対にいるわけねえと彼は断言する。いるわけが無い。例えいたとしたら、そいつは悪い女に利用されるのが好きな変わり者に違いないだろう。
すると彼女はまた笑う、心配してくれてるの？ ボクは優しいねと。
「乱暴なことをされるって、思ってるのね」
「……そーだよ」
実は今はじめて”乱暴”という伏せた言い回しを聞いたのだが、何となく理解出来たし、そうやって何となく理解させる言葉なのだと言うのも感じ取れた。彼女はクスクス笑いながら、ボクは本当に親切ね。とずっと口に手をあてて笑ってて。
「利用されるのが好きな変わり者って──誰のことを指して言ってたつもり？」
顔が近づいてきて、だからやめてって！ と手をバタバタさせたながら彼がその場で転げた。彼女はまだ笑ってる。可愛いなんて心底子供扱いしながら。
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びぃ(プロフ) - キタザキさん» ありがとうございます……！想いの変化や、口頭でのやり取りなど、どうすれば背伸びをした子供で、なまいきで、でも切なくなるか頭を捻らせた所でもあるので、そう言って頂けて本当に光栄です！応援されるに見合う作品をこれからも書けたらと思います！ (2020年7月20日 0時) (
レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - お気に入り登録と評価させて頂きました。続き楽しみにしてます。更新頑張って下さい！応援してます！！長文失礼しました。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - はじめまして！素敵な作品ですね！とても読みやすくて情景、感情表現がとても素敵です。一気に読んでしまいました。特に決別の感情表現とお互いに対する想いの変化、口をついて出る会話の駆け引き。丁寧でストーリーに入り込んでしまいます。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
びぃ(プロフ) - 「 」さん» わー！！「」さんありがとうございます〜！！(；A；)嬉しい……！！！！あれだけ丁寧に説明されたのにも関わらずこの読みにくさで自分で笑ってます(笑)文字書きの道は長い……！ (2020年6月28日 10時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
「 」(プロフ) - 凄い……続きがめちゃくちゃに、気になる・・・。 (2020年6月28日 10時) (レス) id: 57ba460a5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：びぃ | 作成日時：2020年6月28日 4時
