10：終幕 ページ39
──コロシアムを割る様な盛大な歓声が、時の流れを『今』に戻した。
英雄としての席、向けられる羨望、十代の頃とは何もかもが違うはずなのに唯一変わらないあの頃からの横顔。時は現代である筈なのに彼は今でもあの頃の夢の中をさ迷っている。いや違う。あの頃のままなのに『今』といういつ覚めるやもしれぬ夢の中で揺蕩んでいるのか。
くるりと回したワイングラスの中。赤い液体がゆるりと動き酸味を含んだ芳香を漂わせる。口も付けずにことんと机にそれを置くと、彼は幾分かまだふわふわとしたままで彼女に笑い掛けた。
「どうだ、悪い女もいたもんだろ？」
昔の話を、と。初恋の話でも、と。
そうせがんだのは確かに目の前の見慣れない給仕だった。ああ。昔に戻りすぎて夢から覚めちまいそうだったよと英雄はわざとらしく肩を上げる。
「悪い？ そうですか？ 愛に純情で、水面のように儚げで、処女の百合よりお美しく世界の滅びのように優しい女性だと思いましたが……」
「オイオイ、いくら何でも盛りすぎだろ」
「あら、そう？」──給仕は。給仕だったその人はうしししと口角を上げて、今まで見せていた姿とは180度違う表情を彼にみせた。ああ。それはまるで、夢を見る前のような。
「……まだそんな笑い方してんのかよ」
「女は歳を取らないのよ」
「うるせェな」
「ディアくんも随分オトナになりましたねえ」
ああ、今はディアマンテ様でしたね。とまたわざとらしく笑うのだ。誰かがその名を呼ぶ度に、貴方は私を思い出すのねと。嗚呼。なんて歯痒い話だ。
「こんなとこ忍び込んで、知らねェぞ。俺は」
「知らないフリしてくれるなんて優しい」
「強盗か？」
違うわ、怪盗よ。
その返しを狙っての発言だったと言うのに、彼女はそれを言わない。いつもなら──いつもと言うほど共にすごした訳では無いが、それでもいつもならばその様に返してくるはずだったがと彼は彼女の顔を覗き込んだ。数十年で俺は彼女の仕草を忘れたのかな、と。まさかそんなわけと思いながら。
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びぃ(プロフ) - キタザキさん» ありがとうございます……！想いの変化や、口頭でのやり取りなど、どうすれば背伸びをした子供で、なまいきで、でも切なくなるか頭を捻らせた所でもあるので、そう言って頂けて本当に光栄です！応援されるに見合う作品をこれからも書けたらと思います！ (2020年7月20日 0時) (
レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - お気に入り登録と評価させて頂きました。続き楽しみにしてます。更新頑張って下さい！応援してます！！長文失礼しました。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - はじめまして！素敵な作品ですね！とても読みやすくて情景、感情表現がとても素敵です。一気に読んでしまいました。特に決別の感情表現とお互いに対する想いの変化、口をついて出る会話の駆け引き。丁寧でストーリーに入り込んでしまいます。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
びぃ(プロフ) - 「 」さん» わー！！「」さんありがとうございます〜！！(；A；)嬉しい……！！！！あれだけ丁寧に説明されたのにも関わらずこの読みにくさで自分で笑ってます(笑)文字書きの道は長い……！ (2020年6月28日 10時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
「 」(プロフ) - 凄い……続きがめちゃくちゃに、気になる・・・。 (2020年6月28日 10時) (レス) id: 57ba460a5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：びぃ | 作成日時：2020年6月28日 4時
