◆ ページ34
「こんなの、価値があるかも微妙だが」
「ある。愛のある靴だから」
「愛ね」
「そう、死を超えた愛よ」
相変わらず厳かだなと彼は肩を震わせて笑った。そしてAに「ほらよ」と靴を渡そうとする。だが彼女はそれを少し眺めたあと、履かせてくださる？ とこてんと首を倒した。
「めんどくせェな、なんでだよ」
「王子さま」
「仕方ねェ……」
「やだ、ディアくんちょろすぎるよ！」
そうAが涙が出るほどケラケラ笑って、笑いすぎだろと涙を指先で軽く拭き取った。Aはまだ震えるように笑いながら、あら、女の涙の拭き方も知らないの？ と茶化してきた。
「しらねェな」
「覚えて、王子さま」
「なんでも王子って言えば済むと思うなよ」
「さすがにもう通用しないわね、ふふ」
そろりと足に宛てがわれた硝子の靴が、彼女の足を纏う。違う人へ向けた愛の結晶は、彼女の足に綺麗に合うわけもなく、ぶかぶかだった。
「まァ、そうなるわな」彼も見えていた結果に特に驚きを見せない。Aはぶかぶかの硝子の靴を見ながら、まるでいじわるなお姉さん。と声を漏らした。ん？ と首を傾げ、その言葉の意図がよく分からずに彼は短く疑問を声に出す。
「王子さまがこの靴の持ち主を探すの。シンデレラのお姉さんたちは、先に靴を履いてみるのだけど、全然大きさが合わなくて」
「ああ……なるほど」
「やっぱり駄目ね。愛のカタチは偉大だわ」
「偉大だなんて思ってないくせに」そう笑う彼の横で、彼女は靴を脱いだ。ありがとう。大事にするわと短く言いながら。
「愛が偉大……？ 俺はそうとは思わねェが」
「ガラスの靴はその象徴よ？」
「貸せ、ほらはやく」
何を思ったか彼は彼女から靴を預かる。何かを証明したそうに。何をするの？ と不思議そうな彼女の横で、彼は「まあ見てろ」と悪戯っ子の笑顔を見せた。思わず、息を飲む。たくさんの人を惑わせてきた彼の顔だと分かっていたのに。その被害者と先程会話したはずなのに。──でも、彼は魅力的だと思えた。
そしてとても不思議なことが、文字通り目の前で起きた。彼の手の中でふたつの硝子の塊はひらひらと波のように揺らめき出したのだ。
よく見ると波ではない、もっと正確に言うと……布。そう、布ように。
「こんなものかな」少しはためかせて、大きさを調整しているようだった。一定のところで彼は小声で「固定(ロック)」と言う。すると先程までぱたぱたとしていた硝子の靴はぴたりと動くのをやめたのだ。
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びぃ(プロフ) - キタザキさん» ありがとうございます……！想いの変化や、口頭でのやり取りなど、どうすれば背伸びをした子供で、なまいきで、でも切なくなるか頭を捻らせた所でもあるので、そう言って頂けて本当に光栄です！応援されるに見合う作品をこれからも書けたらと思います！ (2020年7月20日 0時) (
レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - お気に入り登録と評価させて頂きました。続き楽しみにしてます。更新頑張って下さい！応援してます！！長文失礼しました。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
キタザキ(プロフ) - はじめまして！素敵な作品ですね！とても読みやすくて情景、感情表現がとても素敵です。一気に読んでしまいました。特に決別の感情表現とお互いに対する想いの変化、口をついて出る会話の駆け引き。丁寧でストーリーに入り込んでしまいます。 (2020年7月19日 23時) (レス) id: 2f1d24406d (このIDを非表示/違反報告)
びぃ(プロフ) - 「 」さん» わー！！「」さんありがとうございます〜！！(；A；)嬉しい……！！！！あれだけ丁寧に説明されたのにも関わらずこの読みにくさで自分で笑ってます(笑)文字書きの道は長い……！ (2020年6月28日 10時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
「 」(プロフ) - 凄い……続きがめちゃくちゃに、気になる・・・。 (2020年6月28日 10時) (レス) id: 57ba460a5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：びぃ | 作成日時：2020年6月28日 4時
