7 ページ8
.
シャワーを済ませて部屋へ戻ると、水羽はヘッドホンを耳に当てて、野崎の言葉を聞き取ろうとしていた。
長い睫毛を伏せて聞き入っている。
ゆっくり彼女に近づくと、ヘッドホンに添えられた手に自分の手を重ねて耳から外した。
黒須「解析依頼済み」
『分かってる。でも気になるでしょ。一体どこで何を探すのか』
奪ったヘッドホンを机に置くと、ベッドの方に目を向けた。先輩は身を縮こませて眠っている。
『お疲れなんだよ』
そうだな、と頷いて椅子に腰掛けるとふわっと甘い花の香りがした。画面をスクロールしてメールを確認する同期をチラッと見た。彼女が動くたび耳にかけられた髪がさらっと落ちる。そしてその都度、先ほどの香りが鼻を掠めた。
あまり見過ぎていると、勘の鋭い彼女は気づいてしまうのですぐに目を逸らした。ただ視点をずらしたところで鼻腔に残る甘い香りは消えない。
『黒須』
黒須「ん?」
『バルカから帰った後の任務来てる』
黒須「りょーかい」
任務の内容を読み上げて、これだけでも忙しいのに鬼畜だねえと笑う彼女がこちらを向いた。
『ねえ…話聞いてた?』
黒須「うん、聞いてた」
『体調悪い?』
黒須「んなわけねえだろ」
『いや、なんかいつもと…ううん何でもない』
眉を下げながら「黒須も早めに寝なよ」と言われる。
黒須「ああ………お前もな」
パタンとパソコンを閉じてやると、非難の色を浮かべた瞳で見上げてくる。
と、突然。ベッドの方から魘されているような声と浅い呼吸音が聞こえてきた。そちらを見やると、シーンを握りしめ小刻みに震える先輩の姿が目に入った。
『乃木さん?』
水羽がベッドサイドに立ち、優しく声をかける。
肩を震わせた彼は目を開けると、勢いよく上体を起こした。
乃木「…ごめん、水羽か、」
『大丈夫ですか?』
ベッド脇に置かれた水を先輩に渡すと、「ありがとう」と頷き、一口。
乃木「ありがとう。二人とも。大丈夫だから」
『乃木さん……あの、いつでも、話してくださいね』
水羽がいつしか言っていた、「乃木さんって、過去のこと話してくれないよね」と。過去に苛まされているなら共有してほしい、背負うものを分けてほしい、と呟いた水羽にそうだなと返したのも覚えている。
でも他人が踏み込むべき領域ではない、過去に干渉するべきではないことを分かっている。過去が何だろうと、俺たちは乃木さんに忠誠を誓い、任務を全うするまでなのだ。
407人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
rui - 所々ある黒須さんとの絡みが読んでいて楽しめました。このあとの2人の関係や水羽さんの過去など、展開が気になります。更新、楽しみに待ってます。 (10月15日 1時) (レス) @page19 id: 3a7fda0428 (このIDを非表示/違反報告)
緑茶 - VIVANTの小説は少ないのでとても楽しく読ませて頂きました!同じく7話が衝撃すぎてどうなるか全く想像出来ないので最終回が終わるまで楽しみに待っています!頑張って下さい🥹 (8月28日 21時) (レス) id: 9f4c88a27d (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 7話衝撃的でしたよね!最終回まで続き楽しみだけど我慢して待っときます...😢 (8月28日 4時) (レス) @page19 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
かい - めっちゃ面白いです! (8月28日 0時) (レス) @page18 id: 2262061eb9 (このIDを非表示/違反報告)
月海(プロフ) - ( 'ω')そうですよね...意外すぎる展開、、、最終回あとの楽しみが出来ました!!頑張ってください!待ってます (8月27日 23時) (レス) @page19 id: 25a0c09626 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:茉莉花 | 作成日時:2023年8月15日 23時