レイニーデイ2 【影山飛雄】

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彼はすでに尖った唇をさらに尖らせて、
私の方をちらりとも見ずに歩き続け、話し続けた。


「俺とはあんな風に話してくれないのに」


彼が掴んでいる腕の部分が火照っていることを、彼に気付かれてはいないか、
そんな心配ばかりが交錯した。


「私、金田一君とそこまで仲良いわけじゃないんだけどな、」
「冗談はよせよ」
「本当だよ」


彼は何かを言いた気に私の方を凝視する。
もごもごとくぐもった声で何かを言ったようだけれど、
私には聞こえなかった。


「金田一を応援するつもりなのか？」


急に立ち止まって私の腕を離す。
重力に逆らうことなく垂れる腕。
先ほどまで感じていた熱が冷めていくのがわかる。
彼の触れていた場所が、どんどん冷たくなっていく。
代わりに、彼の指先に、どうにも触れたくて仕方が無い。


「うわっ、」


効果音が付きそうな勢いで私の両腕を掴む。
身長差のあるはずの彼の顔が、少しだけ近づく。
彼の藍のかかった瞳が、ゆらゆらと揺れている。


「た、確かに！
潮崎さんは金田一と仲良かったのかもしれないけど………、
しれないけど！！」


何かを必死に訴えようとするその姿が少しだけ笑みをもたらす。


「でも、俺は、その、
あー、っと、まだ速攻も完成したばっかだし、
金田一の方が身長でけーし、
彼奴の方が喋りやすいかもしれねえ……けど、
けど。」


うまく言葉がまとまらないのか、
私の腕をそっと話して、頬を掻き、髪をわしゃわしゃと崩し、
またそのサラサラの髪は元の形へと自然と戻り、
眉間に皺を寄せ、唇を尖らせて、
行き場をなくした手が空気を掴むようにして、
何かを私に伝えようとしていた。


「でも、俺は、」


「私は烏野のマネージャーなわけだし……、
私は、その、」


彼がごくりと空気を飲み込む音がした。
ただ、頑張れというだけなのに、緊張して声が震える。
彼もどうして良いのかわからないのか、先程から視線が泳ぎに泳ぎにまくっている。


「か、影山君のこと、応援、してる……よ、」


鼓動が煩い。
まるでこの広い廊下に響き渡っているかのように、煩い。
頑張れ、って言いたいのに、
言えない。
素直に言えない。


でも、私にしてはよく言えた方だと思うのだ。


「あ………あざス！！」


明るくなった彼の顔を見るや否や、すぐに力強く腕を引かれた。
そして目の前を180センチ超えの彼が物凄いスピードで駆けていた。
待って、と言う暇もなく、私も釣られて駆け出していた。


『ハレーションデイ』

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