3 ページ4
わざわざ階段を上ってまで教室に行かなければいけない年功序列を恨むか、その序列先に居る2年生様を恨めばいいか、はたまたドジった危なっかしい自分を恨めばいいのかわからないが、これからは階段では走らないようにしようと誓った。
(怪我をしなかっただけまだ良しか。医務の先生、ちょっとしつこいし)
ただの擦り傷なのに、ベットで休むよう促してくる大袈裟なマルコ先生を思い浮かべながら、私はパンを拾おうとしゃがむ。
私はパンを拾おうと手を伸ばしたのだが、パンが宙に浮いたために拾えなかった。
何を言ってんだと思うだろう。そもそも、パンは浮かない。
パンが浮いたのではなく、誰かが拾ってくれたのだ。落ちた衝撃で形が崩れ、巻貝状のものからチョコがはみ出たものなんて、ビニールごしとはいえ触りたくはないだろうに。
『ああ、すみませ……ん………』
拾ってくれた人に礼を言おうと顔を上げた。だが、その人は崩れた無惨なパンよりも見たくもなかったものである。
「……………」
『………あ……』
彼は、私に対して無口だ。
沈黙に気まずくなり、思わず言葉が詰まる。
トラファルガー・ロー。同じクラスではあるが、話したことは無い。というか、話しかけられない。事務的な連絡だって、彼の周りにいる子に伝言の形で頼んでしまうほどに話しかけられない。
なんと言っても、彼は同じクラスのルフィ、ゾロ、そして他クラスのボニー、キッド等とならんで”最悪の世代”と評せられる問題児だ。
(…最悪だあ)
なんでよりによってこんな時にかち会ってしまうのか。
どうする？「あいつ、落として形崩れたパン食ってやがんの」なんて言われたら。
……いや、死ぬ。学校での立場をなくして、それこそコイツらの部下として働かなくてはならないのでは？そもそも食わないともったいねーし。
じゃあどうする？このまま知らないフリして逃げるべきか？
……いや、死ぬ。拾って貰って礼を言わないなんて無礼を働いたら末代まで祟られる。
(……じゃあ、どうする？)
この場を凌ぐ最善の方法がわからない。焦りによって、額に汗が滲む。焦った表情を悟られたくなくて、思わず下を向いてしまう。
「おい」
『……あ』
無言を貫いていると、途端に目の前のトラファルガーに声をかけられた。
流石に無言はここいらが限界か。そして私のスクールライフもここいらが限界か。
迫ってくる death or death に息を飲む暇もなく、脊髄反射的に答えてしまった。
『…あ、食べますか』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまちー | 作成日時：2022年9月19日 23時
