彼という人 ページ4
それから彼はちょくちょく私の屋敷に来た。
私が両家の娘だと分かっても。
別邸で仕事をする私の所へ来ては、面妖な話を聞かせてくれた。
初めは傷の具合を確かめにだった。
｢これ、少し巻きが甘いんじゃないか？｣
｢アラそう？｣
｢どれ！巻き直してやろう！｣
傷だらけの手が、私の包帯を丁寧に巻き直してくれる。
｢…ありがと｣
｢？どうかしたか？｣
｢いえ。ただその包帯、私が巻いたから｣
｢よもやよもや！そうだったか！しかし巻きが甘いな！｣
何も気づかない何も察せない、しかし、どこまでも真っ直ぐで嫌になるほどの彼の明るさに一周まわって笑ってしまう。
｢そうね。今度は気をつけるわ｣
｢うむ！そうするといい！｣
(くっくっ…)
肩で笑っているのを気づかれないように手元を隠す。
｢A、時に不思議なんだが、何故笑っているんだ？｣
気づかれた。
｢いえなんでもないのよ…くっ…なんでもないの貴方はそのままで居て…｣
ダメね笑ってしまうわ。
明るい顔のまま杏寿郎は首をかしげる。
可愛いわ。最早。
｢所で気になっていたのだが、Aは鬼の話をしても何も驚かないな！普通は何かしら反応があると思うのだが！｣
｢ああ、それね。…祖母が…昔話をしてくれたのよ…私の祖母がお針子をやっていて…そして鬼と呼ばれる何かに襲われたと。その時助けてくれた人が来ていた羽織に目を奪われて、お針子になる事にしたと言っていて…その柄が丁度… 火焔模様…で…｣
言いかけてハッとする。
｢…まさかとは思うけど…貴方の…お父様…？｣
｢よもやよもやだな…恐らくそうだろう！｣
杏寿郎はハキハキと告げる。
｢…不思議ね…親子2代で救ってくれたなんて…貴方のお父様は祖母の中に息づいていたわ…もっと不思議で偶然なのはね、私が一番好きな柄なのよ。その火焔模様は七五三の男の子の着物によく使われるの…私はその柄が好きでお針子になったんだから｣
｢よもや！お祖母様と同じ理由とは！｣
｢偶然が過ぎるわね。それとも運命かしら？｣
眉を上げると杏寿郎はにいっと笑った。
｢また来よう！切り裂き魔は捕まえる！｣
｢ええ、羽織が破れたら来て。あたしが縫うから｣
そう笑うと、彼はいつもの様に、うぬ！と言って帰って行った。
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作者名：フェンタニル | 作成日時：2021年10月16日 20時
