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『何してんの?』
恐怖という黒く厭な塊に支配されていたAの耳に届く、聞きなれた低い声。そのすぐあとに彼らの驚いた声も聞こえた。
『冷てっ!』
『おいやめろ!』
彼らの発した言葉にわけが分からなくなり、彼女は恐る恐る顔を上げて現状を見る。そこにはホースを持ってそこから出ている水を彼らに振りかける、兄である総悟の姿があった。
彼は逃げる者も逃がさずにびしょ濡れにさせていく。その表情は無であり、彼はロボットの機械仕事のように淡々と水をかけていた。
『てめェ! 何すんだよ!』
彼らの内の一人が総悟の胸ぐらに掴みかかるも、それをすぐさま跳ね除けては水を顔面にぶっかける。
『お前らこそ、何してんの?』
見下したように彼らを見ては簡単に鼻であしらう。その姿は氷のように冷たく、心なしかAは背筋が震えた。
今自分の目の前にいるのは、本当に兄である総悟なのか。それを考えてしまうも、自分を助けてくれたのは紛れもない、兄である総悟だ。
『……おい、もう行こうぜ』
水しぶきを飛ばしながら慌てた様に彼らは立ち去って行く。それらを横目で見送った総悟の冷たい視線は、次に呆然と立ちすくんでいるAの方を向いた。
『面倒かけさせんな』
『ご、ごめんなさい……』
気が付いたら彼女の目からは涙が零れ、ホースで濡れている地面に新たな歪な丸い染みを作る。これは安心からの涙か、それとも兄から受ける冷たさに泣いているのか……彼女自身にも分からない。
『泣いてんじゃねェ』
総悟の言葉にAは急いで涙を拭うも、こすりすぎて少々目が痛む。これ以上泣いてはまた兄に失望されてしまう。そう思ったAは唇を噛み締め、拳を握りしめた。
しかし「止まれ、止まれ」と胸の中で何度も唱えるのだが、意に反して涙は止まることを知らない。最後にもう一度鋭くAを睨め付けた総悟は踵を返し、彼女を置き去りにしてこの場を立ち去った。
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ハル(プロフ) - マキさん» わ〜( ; ; ) ありがとうございます!! そう思っていただけたのなら嬉しいです!! これからもよろしくお願いします! (2018年2月18日 14時) (レス) id: 25f689583f (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - 面白いです(^^) (2018年2月18日 8時) (レス) id: 28245e4945 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがとうございます!続編、ぜひ見ていただけたら嬉しいです(^^)これからもよろしくお願いします (2016年6月8日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
ムーたん - 続篇、楽しみです!これからも頑張って下さい!! (2016年6月7日 17時) (レス) id: 5500c96e92 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがたいお言葉頂戴します(^^)これからもどうぞよろしくお願いたします! (2016年5月7日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2016年4月26日 21時