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案の定、総悟は図書室にいた。端っこの席で教科書を開きながらノートに書き込んでいる。成績はこの三年間学年の上位から動いたことはなく、模試でも誇れる順位を保っていた。
そんな兄は彼女、Aの自慢ではあるものの、時折彼の見せる息苦しそうな表情が彼女の不安を煽ってしまう。
『お兄ちゃん』
声を小さくした彼女が横から声をかければ、総悟は目線だけ彼女に向けた。しかしその目もすぐに手元へと移り、普段よりもワントーン低い声を出す。
『……なんの用?』
『書類、書いて欲しくて……』
「お願いします」と彼女が封筒を渡すと、溜め息をついて封を開ける。
静かな図書室は本のページをめくる音が響く。その中で彼の立てるペラペラと一枚一枚不備がないか確認する音もした。
唾を飲み込む音が聞こえないように彼女は喉を潤したくなる気持ちを堪え、プリーツスカートの裾を握りしめる。総悟はボールペンを走らせながらAに忠告をした。
『このまま成績落とすなよ』
『うん、大丈夫』
しばらくして書き終わった封筒を返されたが、彼女はその場から動けずにいる。それを怪訝そうに一瞥した総悟は、呆れを含めた溜め息を机の上に吐き出した。
『……なに、まだ何かあんの?』
『うん、あのね……ここを、教えて欲しいの』
慌てて鞄から教科書を出したAは今日の授業で分からなかった問題を指さす。
しかしそれを見た総悟は彼女を鋭い目つきで睨んだ。その視線にAの伸びた背中には汗が伝う。
『お前はこんなのも分かんねーのかィ。
こんなんじゃ、奨学金制度なんて直ぐに無くなるな』
『……ごめんなさい』
「やっぱり、ダメか」と諦めて肩を落とす彼女が教科書をしまおうとするも、逆に彼に取られてしまった。
『一回しか言わねェからな』
『うん!!』
雲間から太陽の光が覗くように輝く笑顔を見せた彼女の声は「デカイ」と彼に怒られてしまったが、今のAは空っぽだった心が溢れるくらいに一気に満たされている。そして彼は一回でも十分に理解できるくらい分かり易く彼女に教えてた。
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ハル(プロフ) - マキさん» わ〜( ; ; ) ありがとうございます!! そう思っていただけたのなら嬉しいです!! これからもよろしくお願いします! (2018年2月18日 14時) (レス) id: 25f689583f (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - 面白いです(^^) (2018年2月18日 8時) (レス) id: 28245e4945 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがとうございます!続編、ぜひ見ていただけたら嬉しいです(^^)これからもよろしくお願いします (2016年6月8日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
ムーたん - 続篇、楽しみです!これからも頑張って下さい!! (2016年6月7日 17時) (レス) id: 5500c96e92 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ムーたんさん» ありがたいお言葉頂戴します(^^)これからもどうぞよろしくお願いたします! (2016年5月7日 20時) (レス) id: 74bf78ff90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2016年4月26日 21時