標的195 「思い出して行く」 ページ3
何かを言いかけてやめたザンザス。
黙りこくった彼に俺は困りまくるしかないわけで……どうすればいいんですか。
『ボス……?』
「戻るぞドカス」
俺の左を抜けて歩いていくボス。
慌てて羽を仕舞って後を追っかける。この前のスクアーロみたいにゆっくり歩いてくれるわけではないので俺は小走りだ。
『ちょ、ボス!』
「なんだドカス」
『なんで俺を勧誘したんですか!?』
「………知るか」
『えええぇぇ』
「喚くな。おいていくぞ」
『ごめんなさい黙ります』
血だらけの路地裏。
暗殺を企てられるのは今に始まったことではない。十一歳のガキ相手に何人送り込めば気が済むのか。何人きたところで負ける気はしないが。
「チッ……」
意外と深かった右腕の傷に顔を顰めていれば、背後から何者かの視線を感じた。
殺り残しかと振り返れば、ガキが一人顔を覗かせていた。黒髪を肩まで伸ばした、赤い目のまだ四、五歳のガキ。
「何の用だ」
『……怪我してる?』
首を少し傾けたそいつは血まみれで死体だらけの状況にも、俺の睨みにもまったく怯んでいない、ただ伺うような視線を向けてくる。
「テメェに心配される義理はねえ」
『でも痛そう』
「構うな。かっ消すぞ」
軽い脅しのつもりで右手に憤怒の炎をともすと、ガキはキラキラと目を輝かせた。
物陰から出てきて俺のすぐ目の前まで寄ってくる。同じように右手を俺の右手の近くに掲げると、その小さな手に白い炎をともした。二つの炎が混ざって揺れる。
『僕もね、炎出せるよ!』
「ッ!?」
『僕の白いけど……お兄ちゃんのオレンジできれいだね!』
「……るせぇ」
『え?きれいなものキライ?』
「……テメェの白いほうが綺麗だろうが」
あからさまに項垂れたガキに泣かれても面倒だと適当にフォローを入れる。
生憎フォローなんぞ入れようと思った試しもやったことも生まれてこの方ない。だが、ガキはぱっと顔に喜色を浮かべる。
『ほんと!?』
「……あぁ」
『じゃあね、お兄ちゃんとくべつね!きれいなの見せてくれたから!お礼ね!!』
飛び跳ねそうな勢いでまくしたてるガキ。「んー!」と体を縮めて拳を固めて力を入れ始める。数泊後、少し大きく唸ったガキ、その背中から一対の白い羽が生えた。
「あ……?」
『ほら!きれいでしょ!?』
「あ、あぁ」
どうだ凄いだろうと胸を張るガキ。呆気に取られて合意したが、そうではない。
血まみれの路地裏に抜ける風。それに揺れた白い羽根が、やけに幻想的だった。
標的196 「ガキ同士で約束を交わして行く」→←標的194 「まさかの森で迷子になって行く」
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りお(プロフ) - こんばんは、いきなりのごめんと失礼致します!とっても面白かったです、作者様のこの作品を見つけて一気読みしてしまいました!こんな素敵な作品ありがとうございます。次の更新も楽しみにしております! (2021年6月30日 23時) (レス) id: 02a06a9e06 (このIDを非表示/違反報告)
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