vanilla sky

05 ページ23

Yoohei side
_








アルバムリリースが近づいてきて
それに伴ってレコーディングはもちろんのこと、
撮影やラジオ収録、雑誌の掲載など色んな仕事が重なって

あそこの楽器屋に行ける時間なんてものは
まるで無くなっていた。



そんな目まぐるしい日常の中でも、
時折ふと彼女の顔が浮かんでしまう。




彼女と最後に会ったのは
寒い冬の日だったのに

今では降り注ぐ日差しが
少し暑いとさえ感じられてしまうほど
会えていないかと思うと、

ひとつ不安に思うのは
彼女が俺のことを忘れていないかどうか。




幸い、覚えていたとしても

あー、そういえば川上洋平とちょっと話したっけ。

ぐらいとしか思っていないだろう。



俺はAちゃんの事をもっと知りたいのに。



俺のことを知ってる子に自分から話しかけたのなんて
初めてのことだった。

割と特別なことなんだけど、
Aちゃんはそこになんの疑問も持たなかったのかな。



あくまでもバンドマンと楽器屋の店員兼ファンという関係を
崩しきれずにいるのがなんかやるせなくて悔しくて。



でもAちゃんの性格を考えると
あんまりずかずかと行けないんだよな。

追われるより追いたいタイプに見えるし、
好かれてるって分かった瞬間興醒めとか全然有り得そうだし。



そもそもの話、
だいぶ精神的に成熟してそうな彼女の目に
中学生で精神の成長が止まった様な俺が
入ることなんてあるのか？



そんなネガティブな思考が進めば進むほど
彼女に俺を男として見てもらうのは難しいと思えてきて、
自分で自分の自信を削るだけだからやめた。








_

･→←･

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す