目を覚ますまで ページ9
走っても走っても、山を抜けることができない。
同じところをぐるぐると回っているような気がする。
まるで、狐にでも化かされているようだった。
『鱗滝さん……』
刀と共に、私の心の芯も折られてしまったのだろうか。
腰の刀がないだけで、どうしてこんなにも不安な気持ちになってくるのだろう。
まだ太陽は東の空に昇っている。
今は夜じゃない。鬼の時間ではない。
それなのに、なんで……何が怖いんだろう。
何に対して、こんなにも怯えているんだろう。
『鱗滝さん……っ』
「あれだけ一人を望んでいたのに、随分な腑抜けだな」
『っ!』
つい数時間前。
錆兎と始めて出会ったときのことを思い出す。
物音せず、気配もなく、錆兎は私の後ろに立っていた。
あれだけ走ってきたのに、もう私に追いついてる……。
彼の持つ実力が、読めない。
「俺の知人は、心が未熟な奴が多くて困る」
錆兎はため息をつきながら、こちらに歩み寄ってくる。
「言っただろ。お前に足りないのは、絆。人と人との繋がりだと。闇雲に現実から逃げたところで、お前はこれ以上強くなることはできない」
『……錆兎が何を言ってるのかわからない』
「焦ることはない。今はただ、ゆっくり休んでいろ」
辺りに立ち込む霧が濃くなっていく。
錆兎はあの時と同じように、こちらに手を伸ばす。
なんとなく、その手に触れられてはいけない気がして……私は彼の手首を掴み、近づいてくる右手を拒む。
「っ!」
『……帰りたい。鱗滝さんに会いたいよ』
帰り道がわからない。
多分、これが迷子になったときの気分なんだと思う。
私は生まれてこの方、迷子になったことがない。
帰る場所がないほうが多かったからだ。
心の何処かでは、覚悟していたのかもしれない。
鱗滝さんも、私を置いていなくなってしまうんじゃないかって。
考えたくもないけど、いつか来るであろうそんな未来に怯えていた。
そんな最悪な未来に似た状況が、今、私の目の前には広がっている。
「……ごめんな」
錆兎は消え入りそうな声で謝罪した。
それが何に対しての謝罪かはわからない。
ただその声は、錆兎自身も何処か苦しんでいるような声で。
「Aにもあの人にも、もう悲しい思いはさせたくないんだ。これが今の俺にできる、唯一の恩返しだから」
錆兎は私が掴んでいない反対の腕を伸ばし、私の体を包み込んだ。
宍色の髪がチクチクと頬をくすぐる。
「せめてAが目を覚ますまでは、俺が傍にいてやるから」
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時