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おやすみ ページ5

消えない血の匂い。
冷たくなっていく体。
動かない表情。
こちらを映さない瞳。

あんな思いは……もう、二度としたくない。

『鬼がいるこんな世の中じゃ、いつ人が亡くなっても不思議じゃない。もしかしたら私だって……明日が来る前に、今夜にでも鬼に殺されるかもしれない』

生きるのって、凄く大変だ。
こんな残酷な世界では、人との繋がりを持つのも、生きるのと同じくらい大変だ。

__だけど、

『最初から……。いなくなるなら、最初から近づかないでよ。死ぬなら、最初から関わらないでよ。私はもう……一人になりたくない、だけなのに……っ』

視界が歪む。
熱い涙が、頬を伝って滴り落ちていく。

「……鍛練以前の問題だな」

『……っ』

呆れたような、無慈悲な声が上から降りかかってくる。

「その志を正さない限り、お前はこれ以上強くなれない」

『……なら教えてよ。私に何が足りないのか、どうすれば強くなれるのか、どうすれば苦しい思いをしなくなるのか、私に教えてよっ』

私は顔を上げ、無表情な狐の目を睨み付ける。

「お前に足りないものは、まだここにはない。お前が強くなりたいと望むなら、それがやってくるまで待つしかない」

『ここにはない……? 待つってどういうこと? 最終選別は明日なんだよ?』

「お前の名は?」

狐面の青年は私の問いに答えず、唐突に私の名前を聞いた。

……そう言えば私、まだ名前を名乗ってない。
狐面の彼の名前も、知らないんだった。

「お前の名は?」

狐面の青年は、答えを催促するようにもう一度問いかける。


『……A。蛍原(ほとはら)A』


「そうか」

狐面の青年はその名前を覚えるように、何度か私の名前を呟く。

『……ねぇ、貴方の名前は__』

「__A」

彼は私の言葉を遮るように名前を呼ぶと、私と顔を合わせるように片膝を地面につける。

口元に傷のような模様を掘った無表情な狐が、ぐっと私の顔を覗き込む。

「お前に必要なのは、絆だ。人と人との、尊く強い繋がり。だが、お前に適した人間は、今ここにいない。その人間がここにやってくるまで待つんだ」

狐面の青年は徐に右手を上げ、人差し指を立てる。

「お前と共に競い、高め合える者が現れるまで、」

彼はその人差し指を、トンッと私の額に当てた。

『っ!』

その瞬間。
何故だか、急激な眠気が私を襲った。

何これ。何が起きたの?
瞼が、重い。


「__おやすみ」

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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時

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