向けられた愛情 ページ29
私は自然な流れでその場に正座する。
すると鱗滝さんは、厄除の面を取り出した戸棚から何かを取り出した。
鱗滝さんは私の正面に座ると、私と鱗滝さんの間に紺色の風呂敷に包まれた何かを置く。
『これは……?』
鱗滝さんは無言で風呂敷を開いていく。
紺色の中から現れたのは、
『……っ!』
__最終選別前日に鱗滝さんから貰い、錆兎によって刀身を折られた、日輪刀。
あの後、狭霧山の何処を探しても見つからなかったのものだ。
まさか、鱗滝さんが持っていたなんて……。
「五年前のお前が姿を消したあの日、あの大岩の奥で見つけた」
話さなければ、説明しなければならない。
鱗滝さんに、私が神隠しされていた空白の時間を。
私は膝の上で拳を握り、小さく深呼吸をする。
『信じて貰えないかも知れませんが……鱗滝さんに、話したいことがあるんです』
私は全てを語った。
錆兎達と出会ったことから、異形の鬼を倒さなければいけないことまで、全てのことを。
鱗滝さんは匂いでこの話が戯言でないことを悟ったのか、真っ向から私の話を否定することはなかった。
私が語り終えると、短い沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、鱗滝さんの嘆息だった。
鱗滝さんは折れた日輪刀を脇に寄せると、両手を自分の前に重ね、深々と頭を下げた。
「すまなかった」
『えっ、あの、鱗滝さん……!?』
「儂はお前に欠けたものを見抜いておきながら、私欲のためにそれを指摘しなかった。死んだあの子たちのために……真摯に鍛練に取り組むお前を、己の復讐のために利用しようとした。
儂は__育手失格だ」
『……っ!』
違う、違うんだよ鱗滝さん。
私は、私達は謝ってほしいわけじゃない。
命や時間を償ってほしいわけじゃないんだよ。
『……お願いですから、顔を上げてください。鱗滝さん』
私がそう言うと、鱗滝さんはゆっくりと頭を上げる。
『私は、鱗滝さんを恨んでなんかいません。
それはきっと、錆兎も真菰も、他の弟子たちも同じです。
私たちはただ、鱗滝さんに笑っていて欲しいだけなんです。鱗滝さんが私たちに向けてくれた愛情は、紛れもない本物だから……。
だから、そんなに自分を責めないでください。
鱗滝さんの感情を、私達にも分けてください。
__鱗滝さんの思いも、錆兎たちの思いも全て背負って、私は必ず最終選別から戻ってきます。
必ず、異形の鬼を倒してみせます』
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時