剣を交えて ページ17
誰かかに肩を揺すられ、名前を呼ばれる。
それによって意識が浮上していき、私は目を開けて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
『ん……おはよう、錆兎』
習慣づいてしまった言葉を口にすると、予想とは違うクスクスと笑う声と、困惑したような声が返ってくる。
「ふふふっ」
「えっと……すまない。俺は竈門炭治郎といって、錆兎じゃないんだ」
『……え?』
炭、治郎……?
徐々に視界が鮮明になっていき、口元に手を当てる真菰と、苦笑いを浮かべた炭治郎の姿を捉える。
目が覚めたとき、錆兎が傍にいないのは今回が始めてだ。
初めての出来事に驚いていると、炭治郎は優しい表情を浮かべながら続ける。
「A、だったよな? 起こして早々にすまないが、俺と剣を交えてくれないか? 頼む!」
『えっと……』
私の前で、炭治郎が地面に鼻を擦り付けるような綺麗な土下座を決める。
説明を求めて炭治郎の奥に立つ真菰に目を向けると、その意図を汲み取った真菰が語り始める。
「炭治郎はね。最終選別に行く条件として、錆兎に勝って、あの大岩を切らなきゃいけないの。そのためには実践をたくさん積む必要があるから、Aにも手伝ってほしいんだ」
大岩……奥の開けた場所にある、あれのことか。
私も鱗滝さんに最終選別に行く条件として、あの岩を切れって無茶振りを言われたっけ。
岩を切って最終選別の許可を貰ったのはつい先日のはずなのに、もう大分昔のことのように思える。
『……でも、私』
そんなことはないと、信じたいけれど……
もし本当に、鱗滝さんが私を見限って、彼を新しい弟子にしたのだとしたら。
“失敗作”の私なんかが、炭治郎の相手になれるのだろうか……?
無意識に暗い表情を浮かべていたのか、真菰は私を励ますように言う。
「大丈夫。Aならできるよ」
私は真菰から未だに頭を下げている炭治郎に視線を移し、そのまま項垂れる。
__わかってる。
逃げてばかりじゃ、前に進めない。
落ち込んでたって、何も解決しない。
逃げるな。諦めるな。
どんな出来事も、無駄にはならない。
そう、鱗滝さんが教えてくれたから。
『……少しだけ、なら』
真菰から借りた、錆兎の木刀。
その峰で炭治郎の真剣を受け流し、一瞬の隙を狙う。
『水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き』
「うわっ!?」
炭治郎は素早く後ろに飛び、私の木刀を躱す。
その瞬間、袖から突き出た腕に鋭い痛みが走った。
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時