37歩目 ページ40
自分はまた何かしてしまったのだろうか。「おかえり」の声がないリビングを見て蒼は己の言動を振り返る。桐島麗の一件は話した。無視していても分かってくれているはずだ。靴はあった。ならAがいるのは2階の自室だろう。
案の定Aは自室にいた。小さな声は少し震えている気がする。許可をもらい入ると、Aはベッドの上にいた。
「あの……俺また、何かしちゃったかな……?」
実際、何かしたわけじゃない。Aはブンブンと首を振った。キスの件はAに関係ないことだ。なのに、こんなにモヤモヤして苦しくなる。
「違うよ。蒼が悪いんじゃないんだ……」
じゃあ何が、と聞こうとして蒼はAが泣いていることに気付いた。
「分かんないんだよ!何でこんなに苦しいのか……。でも嫌なんだ。蒼と桐島さんがキスしてたのも!蒼が桐島さんに会いに教室に来ることも!ずっと……心が痛くて、モヤモヤして、何が何なのか分かんないッ!」
だから神様に会わせないでとお願いしたのに。こんなふうに泣いて、蒼を困らせてしまう。
Aは乱暴に目元を拭った。でもやはり涙は止まらない。その手を近づいた蒼がそっと止める。
「ねぇ、兄さん。試してみようか」
Aの手に置かれた蒼の手に力が籠る。蒼の熱っぽい瞳と目が合ったAは捕らわれたようにじっと見つめる。
「―――――――その気持ちが、何なのか」
言葉とともに唇に当たる柔らかい感触。蒼の顔が近い。少ししてからAは、
蒼にキスされていることを自覚した。
「んっ……!?」
重心が傾きAはキスされながらベッドに倒れた。置かれていた手が恋人繋ぎに修まる。
そのまま蒼は角度を変えキスを続けた。離れてすぐ重なるそれにビクつくAが愛らしい。名残惜しそうに唇を離した蒼は倒れたAを見る。
「ねぇ、嫌だった?」
好きな人からあんなこと言われたら、誰だって期待する。でもさすがにいきなりはないだろう。蒼は心の中で自分を責め立てた。こんなことしたら、嫌われる。
「な、んで……」
Aは驚きで目を見開いた。
「あれ?――――――――――嫌じゃ、ない……?何で…?」
今度は蒼の目が見開かれた。嫌じゃない。それは、つまり。
「………ごめん兄さん、出てくよ」
「あ……」
何か言いたげな声を無視して素早くAの部屋を出た蒼は扉の前でしゃがみこんだ。全身が火傷したのかと思うほど熱い。
――――――――――ねぇ、A。俺はこの恋を、期待してもいいのかな?
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時