49冊目 ページ9
朝。湊は久々に自分の意思で外出した。父のいる病院へ行くと決めたから。
行ってきます、と口に出したのは何年ぶりだろうか。
電車に乗りバスに乗り、着いたのは県総合病院。ここにある精神科の病棟に父がいる。
少し手が震えている。緊張で喉が渇く。冷や汗まで出てきた。もう何年も会ってない父は、自分が来たことで叫んだりしないだろうか。「お前なんか息子じゃない」「会いたくなかった」と言われたらどうしたらいい?次こそ永遠のトラウマものだ。
それでも足を進めるのは、向き合うと決めたから。
「すみません、九条信彦はまだ入院してますか?」
受付をしていたナース達は湊を見て驚いた。何せ何年も来なかった息子が今更見舞いに来たのだから。
「入院中ですよ」
番号も教えてもらい、遂に部屋まで来てしまった。一度深呼吸して、そっと扉を開けた。
彼は、ベッドに腰掛けながらこちらを見て、泣きそうに口を押さえた。
「湊」
その声は泣きそうだが、確かに父として息子と再開できたことを喜ぶ音が混じっていて。
「父さん……」
声が震えていたかもしれない。厳しかった父が、会えたことに喜びを感じているだなんて信じられなかった。同時に、嬉しかった。
「まだ父と呼んでくれるのか」
随分痩せて、髪も白髪が多くなったが変わらない父。湊はベッドに近付き伸ばされた手を握りしめた。
「俺の父親は、あんたしかいないでしょ……!」
信彦は握られていない手を伸ばし湊の頭を抱き寄せた。
「すまなかった」
ただその一言に全てが詰まっている気がして、湊の目からついに涙が溢れた。
嫌われていると思っていたのだ。父は家でもあまり話してくれなかったから。父の性格上そこまで話す人ではないことも分かっていたが、それでも会話が少なかったことを、自分が嫌われているからだと湊は思っていた。
「今まで来てくれなかった理由も分かっている。私はいい父親では無かったから」
だが、と区切った信彦は湊を見て何かを感じ取ったらしい。
「大切な人が出来たようだな。ここに来れたのもその人のおかげだろう。強くなったな、湊」
目付きが変わっているのが分かった。父親として、湊のことを何も見ていなかったわけではないのだ。
「うん。俺もう大丈夫だから、これからも父さんに会いに来る」
「ありがとう」
ああ、大切な息子よ。
きっと辛いことがいっぱいあっただろう。私は父親が出来ていなかったから。
それでも、こんな状態になっても、私を父と呼んでくれたこと、私はとても嬉しかった。
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!返信遅れてごめんなさい!キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω`*) (2019年12月14日 13時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜!!この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです!!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません!ドキドキしていただけたなら作者も満足です!次回作もよろしくお願いします! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません!可愛く書けていたなら良かったです!次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね!この作品を読んでいただきありがとうございました! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました!完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年8月10日 22時