検索窓
今日:4 hit、昨日:5 hit、合計:119,183 hit

49冊目 ページ9

朝。湊は久々に自分の意思で外出した。父のいる病院へ行くと決めたから。
行ってきます、と口に出したのは何年ぶりだろうか。
電車に乗りバスに乗り、着いたのは県総合病院。ここにある精神科の病棟に父がいる。

少し手が震えている。緊張で喉が渇く。冷や汗まで出てきた。もう何年も会ってない父は、自分が来たことで叫んだりしないだろうか。「お前なんか息子じゃない」「会いたくなかった」と言われたらどうしたらいい?次こそ永遠のトラウマものだ。

それでも足を進めるのは、向き合うと決めたから。

「すみません、九条信彦はまだ入院してますか?」

受付をしていたナース達は湊を見て驚いた。何せ何年も来なかった息子が今更見舞いに来たのだから。

「入院中ですよ」

番号も教えてもらい、遂に部屋まで来てしまった。一度深呼吸して、そっと扉を開けた。
彼は、ベッドに腰掛けながらこちらを見て、泣きそうに口を押さえた。

「湊」

その声は泣きそうだが、確かに父として息子と再開できたことを喜ぶ音が混じっていて。

「父さん……」

声が震えていたかもしれない。厳しかった父が、会えたことに喜びを感じているだなんて信じられなかった。同時に、嬉しかった。

「まだ父と呼んでくれるのか」

随分痩せて、髪も白髪が多くなったが変わらない父。湊はベッドに近付き伸ばされた手を握りしめた。

「俺の父親は、あんたしかいないでしょ……!」

信彦は握られていない手を伸ばし湊の頭を抱き寄せた。

「すまなかった」

ただその一言に全てが詰まっている気がして、湊の目からついに涙が溢れた。
嫌われていると思っていたのだ。父は家でもあまり話してくれなかったから。父の性格上そこまで話す人ではないことも分かっていたが、それでも会話が少なかったことを、自分が嫌われているからだと湊は思っていた。

「今まで来てくれなかった理由も分かっている。私はいい父親では無かったから」

だが、と区切った信彦は湊を見て何かを感じ取ったらしい。

「大切な人が出来たようだな。ここに来れたのもその人のおかげだろう。強くなったな、湊」

目付きが変わっているのが分かった。父親として、湊のことを何も見ていなかったわけではないのだ。

「うん。俺もう大丈夫だから、これからも父さんに会いに来る」

「ありがとう」

ああ、大切な息子よ。
きっと辛いことがいっぱいあっただろう。私は父親が出来ていなかったから。
それでも、こんな状態になっても、私を父と呼んでくれたこと、私はとても嬉しかった。

50冊目→←48冊目



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.4/10 (304 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
702人がお気に入り
設定タグ:BL小説家 , 無気力 , 世話焼き , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!返信遅れてごめんなさい!キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω`*) (2019年12月14日 13時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜!!この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです!!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません!ドキドキしていただけたなら作者も満足です!次回作もよろしくお願いします! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません!可愛く書けていたなら良かったです!次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね!この作品を読んでいただきありがとうございました! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました!完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年8月10日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。