番外編 熱と看病と ページ35
思い出せば朝から体調が悪かった。頭はぼーっとするし体は熱くて重い。
それでも空元気で取り繕ったのは優香里と父さんが二人して休日だったからだ。普段から仕事が忙しく話す機会も少なかった。そんなときにできた、家族の時間。無駄にするわけがない。
朝から優香里とパンケーキを作り、家族でテレビゲームをした。お菓子を用意して映画も見た。その間はだるさなんて感じなくて、むしろ楽しくて仕方なかった。
困ったのはその後だ。
「はぁ……」
空はすっかり暮れて一通り遊んだA達は今は落ち着いた時間を過ごしていた。父さんと優香里は二人で夕食を作っている。蒼は、どこにいるんだろうか。
ソファーに倒れるように座り目を瞑る。先ほどから主張の激しい頭痛と体の重さがほんの少しだけ和らいだ。
駄目だ。もう少しで1日が終わるんだから。こんなに楽しかったのに最後が自分の風邪のせいで心配されて終わるなんて可哀想すぎる。
だから、もう少しだけ――――――
「もう限界でしょ、兄さん」
ぴとり、とひんやりした手が額に当たる。冷たくて気持ちいい。
閉じていた目を開けると、顔を歪ませた蒼が見えた。ああ、またそんな顔をさせてしまった。
「朝から体調悪かったの隠してた理由は大方わかるけど、さすがに我慢しすぎだよ。我慢して熱上がったら余計心配掛けちゃうんだから」
蒼はすごいな。どうして考えていることがわかるんだろう。とAはぼーっと考えた。
「……ごめん」
空元気を保っていた糸が切れてしまったらしい。気持ち悪くなってきた。
「A、蒼、悪いが―――A?」
「あら、Aくんどうかしたの?」
ちょうどいいところに、と蒼はAの体調不良を言おうとした。が、母さん達も何か言いたいことがあるらしい。
「風邪ひいたみたいです」
そう言うと二人は顔を見合わせた。
「それは…困ったな…」
「私達ね、緊急の仕事がはいっちゃって……」
普段この人達はA達を大事にする。そんな二人が仕事を優先させようとするならよほどのことなのだろう。
「なら、兄さんの看病は俺がやるよ」
「だが……」
智仁は初め渋っていたが蒼の予想通り抜けられない仕事なのは確かだ。任せるしかない。
家を出るとき、智仁は蒼を振り返った。
「蒼、できるだけAのそばにいてやってくれ。あの子は熱が出ると必ず咲希が……母親が死んだときの夢を見るんだ」
そういえば前にもうなされていたことがあった。苦しそうな顔だったのを覚えている。
「任せてください」
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埋夜冬(プロフ) - ウェーイさん» 喜んでいただけているご様子ですね!嬉しいです! (2021年7月10日 22時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ウェーイ - (*^▽^*) (2021年7月10日 22時) (レス) id: 600bb56534 (このIDを非表示/違反報告)
トマトジュース - アギャァァァァァァ!!無理尊い、辛い、泣けるンゴ、吐血するンゴ、つかしたんご (2019年9月19日 22時) (レス) id: b4078055ec (このIDを非表示/違反報告)
カナ - (^∇^) (2019年7月13日 14時) (レス) id: 99b9fc8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - カナさん» ありがとうございます!もうすぐ終わりますのでお楽しみに☆ (2019年7月12日 7時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作者ホームページ:http://uratuku/sounewawawa1
作成日時:2019年3月5日 23時