【BL】先生首輪(それ)はキツいばい【オリジナル】

兎23匹 ページ26

Aが保健室に来なくなって１週間が経った。彩兎はずっとモヤモヤしている。

『保健教諭の彩兎先生』であればこの状態は喜ぶべきだ。学校にも来ないときがあった不良青年が学校に来るようになり、さらに保健室登校からクラスで授業を受けるまでに成長したのだ。ちょっとしたいざこざはあるらしいが前のように突っかかって来なくなった、と報告を受けている。校長などから感謝されまくりの現在、よくやったと自分を褒めてもおかしくない。

だがしかし、『高田彩兎』であるならどうだろう。この状況を素直に喜べるだろうか。
大切な人が、何も言わずに自分の前から消えてしまったこの状況を。

彩兎は自分が何か悪いことをしたのか心配で胸が潰されそうだ。もしかしたらAは私が怒らせてしまったから来ないのではないか、と。ならばすぐに謝らなければ、彩兎の計画が失敗に終わってしまう。

どうにかしてAを保健室に戻さなければ。いや、戻さなくても良い。一度だけでも保健室に来てくれれば手はいくつでもある。

ああ、でも今来たら保健室は二度と来てくれないかもしれないな。と彩兎は思う。先程吐き気を催した生徒が嘔吐してしまい、保健室はあの特有のにおいが充満している。
その生徒はもう親御さんが引き取り、今はその子の靴をエタノール洗浄しようとしているところだ。
桶にエタノールを溜めそこに付ける洗浄。エタノールは殺菌作用があるため効果的だ。

一人になった今、考えるのはやはりAのこと。今、何をしているのか。嫌われてしまったのか。上手くやってると言われたとき、私は心の底から笑えるのか。

はぁ、とため息を吐きエタノールに靴を付けようとしたその時。

「熱ｯ！！！」

静電気が作用してエタノールから引火してしまった。

手が痛い。自分の手を見ると火傷を負っていた。だが火傷の第三度。まだ大丈夫。エタノールから引火したならエタノールを薄めればいい。

そこで警報器が作動する。近くにいたらしい先生達が来て消火。事態はすぐに収まった。
保健室が火事になったことはすぐに生徒達に広まり、警報でグラウンドから戻ってきた生徒が覗きに来る。

「彩兎先生、怪我した？大丈夫？」

「大丈夫ですよ」

生徒に聞かれる度にそう答えているが火傷した右手をひやしていない。痛みを訴える手を見ないふりしてポケットに突っ込んでいる。

彩兎にバレないよう保健室を覗いたAは、ポケットに突っ込んでいる彩兎の右手を鋭く睨んだ。

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