兎18匹 ページ21
彩兎が連れてこられたのは薄汚い小さなアパートだった。そこの2階の端。それがAが引っ越した新しい家。
この時間ならあの人達は帰ってこないだろう。いつもなら一人で過ごすこの時間に他人が来るなんて初めてだ。それが彩兎なことが、ほんの少し嬉しかった。
「お邪魔します」
「誰も居らんと、返事は返ってこんばい」
昔もAは挨拶をしていた。行ってきますも、ただいまも言っていた。返事がないから言わなくなった言葉だ。
「適当に座って」
救急箱はよく使うので取りやすいところに置いてある。そういえば包帯が少なかったはずだ。足りるだろうか。
「手当てするたい」
暗に服を脱げと言うと、察した彩兎はクリーム色のカーディガンから脱ぎ始めた。
その間Aはタオルと冷凍庫から保冷剤を持ってくる。患部は冷やした方がいい。これは彩兎の教えだ。
彩兎が見せた右腕は赤く腫れていた。白くて綺麗な肌にこんな跡を付けるとは。あの雑魚不良供をもう一度殴りたい。
「……天崎くんはいつもこんなに痛いんですか?」
タオルに包んだ保冷剤を患部に当てていると、彩兎がそんなことを聞いてきた。
「慣れればなんともないたい」
違う。こんなことが言いたいわけじゃないのに。こんなに素っ気ない態度を取りたいわけじゃないのに。
「そう、ですか……」
辺りに残るのは微妙な空気と沈黙。彩兎の横顔が悲しそうだ。
一先ず患部は冷やした。あとは包帯だ。湿布を張りテープで留めてから包帯を回す。
「……ごめんな」
気持ちが言えたのは、包帯を巻き終わってからだった。
「あんたが怪我する前にぶっ潰しておけば、こがんことにならんかったと」
いつも一人で喧嘩していたせいか、周りに目がいかなかった。彩兎以外の人があの場に入ってきても無視して喧嘩していたことは間違いない。
Aは休日に彩兎に会えたことが嬉しかった。嬉しかったから、不良そっちのけで言い合いを始めたのだ。話したかったから。
不良のことは不良である自分がよく分かっていたのに。
「いいえ。天崎くんが言った通り、私はあの場で逃げた方が良かったです。いても足手まといでしたよね。殴られたのは自分が悪いです。天崎くんが謝ることではありませんよ」
彩兎だって、休日にAと会えたことが嬉しくて堪らなかった。しかもAの家に上がらせてもらえるだなんて。
なので、後悔を滲ませているAのツンツンした髪をそっと撫でた。
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埋夜冬(プロフ) - 。#vllさん» そうなんですか!?これの発案者は作者のお友達なんですけど、その子がどうしても兎を名前に入れたいって言ってました。ヤンデレ好きなので関係しているかもしれないですね!最後までお読みくださりありがとうございました! (2019年10月25日 23時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
。#vll - 兎系の人はやんでれと聞いたことがあります、彩兎くんの名前と関係してそー。と勝手に考えていました。とても面白い作品でした。♪ヽ(´▽`)/ (2019年10月25日 12時) (レス) id: 01ebef5845 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 紫園さん» どうもありがとうございます!二人とも尊く書けたのからよかったです!方言は私も書いてて楽しかったです!この作品を好きになっていただきありがとうございました! (2019年5月1日 18時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
紫園(プロフ) - 最後までお疲れ様でした!本当に尊い2人です(´;ω;`)方言とかも最高でした! (2019年4月28日 16時) (レス) id: a3fbe17e50 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 李守文さん» 嬉しい限りですありがとうございます!!!私も博多弁書いてて楽しかったです!そして同じように日常で使いました(笑) 今後も作品を出していきますのでどうぞよろしくお願いします!この作品を好きにいただいてありがとうございました♪ (2019年4月27日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年1月26日 16時