願い 8 ページ9
悪魔は目を瞬いた。もしAの言う″聞きたいこと″への返答がAの望むものだとしたら、願いを言ってくれるかもしれない。
「おう!何でも聞くといい!」
一度目を伏せたA。次に悪魔に向けた瞳はあまりにも真剣で、悪魔は一瞬たじろいた。
「――――死んだ人を生き返らせることは、できる?」
ビクッと体が揺れる。
それは、それだけは、悪魔が絶対に叶えてはいけない願いだった。自分が悪魔として生まれるときに言われたことだ。
死人を生き返らせる。それは存在していないはずの人間が存在していること、つまりは世界の輪廻転生を狂わせてしまう。
「すまないが、その願いだけは叶えられないんだ」
拳を握る。Aが初めて悪魔に対して真面目な質問を否定するのが悪魔には耐えられなかった。願いを叶える悪魔として最低だ。
「そんなに悔しそうな顔しないでよ。わかっているから、叶えられない願いだって」
分かっているんだ。
自嘲するように、泣きそうに、彼は呟いた。
その心に、悪魔が踏み込んでいない部分がある。踏み込んだらきっと願いの鱗片が見えるだろう。だが何故か、今まで叶えてきた奴等みたいに土足で入ってはいけない気がした。
「なぁ、俺も聞いてもいいか?」
「何?」
話しかけた時にはもう、あの全てを諦めたような顔に戻っていた。
「もしそれが叶うとしたら、誰を生き返らせたかったんだ?」
Aは目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、奇病を持っている自分をここまで育ててくれた両親の姿だ。
「父さんと母さんだよ、事故で死んじゃった」
自分の奇病のせいでずっとやりたいことを後回しにして過ごさせてしまった、大切な家族。
その日は2人の結婚記念日で日帰りの旅行に夫婦水入らずで楽しんでもらう予定だった。だが行きの高速道路で追突され、2人は即死。追い討ちをかけるように発作が何度も起きて一番辛かった時期だ。
「お前って、想像以上に苦しい体験ばかりしてきたんだな」
「もっと辛い人だっていっぱいいるよ」
あれは運命だったから、と諦めている。
全てを受け入れて、諦める。その生き方は単調でつまらなく楽だろうが、彼の心は泣いているのではないか。
彼を見る悪魔の心は何故か痛んだ。彼の痛みの欠片を共有するかのように。
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時