願い 21 ページ22
外に行ってくる、と言ってもAは「好きにしたら」としか返ってこなかった。何だか怒っているように聞こえたし、オルバもモヤモヤして一緒に居たらまた喧嘩になってしまいそうだ。外で空気を吸ってこようと思う。
車の音、人の笑い声、店から漏れる音楽、時折吹く風と、それに乗ってくる排気ガスの匂い。オルバはこの景色を感じるのが好きだ。同じ景色になる事が1度もないから。日々変わり新しい発見がたくさんできる、オルバにとっての宝箱。
この景色でオルバのモヤモヤが少し落ち着いた。よし、冷静になって考えよう。
Aが怒っているのは考え方を押し付けたからだ。彼にだって抗って生きようとしていた頃もあっただろう。両親が亡くなってから頑張りは無駄だったと思ってしまったのかもしれない。
でも『幸せになっちゃいけない』のは違うんじゃないたろうか。辛い思いをさせたから、なんて。Aだって原因も治療法も分からない時点で十分に辛いし罰を受けている。他にも辛い思いをしている人がいるかもしれないけど、Aがその中で1番辛くなる必要は無い。病気を持ったのはAのせいじゃない。なのにどうして、彼があんなに苦しんで、死を受け入れなければならないのか。
「神とやらは、相変わらず酷いお方だな」
こんなに一人に試練を集中させるなんて、全く平等ではないと思うぞ。
そう思いを込めて空を見る。今日は晴天で、流れる雲は「知るか」と言うように過ぎていった。
「ま、願いを聞き出せない俺も十分"酷い奴"だよな」
そんなに無力だろうか、自分は。
願いなんてないと言えてしまうほど、本当の自分を明かせないだろうか。
……全く悪魔らしくない。一人の人間にこんなに思い悩むなんて。いっその事彼から離れてまた眠れば、思い出として忘れられる。離れてしまおうか。
そこでふと、歩いている母娘が見えた。
「もー、歩きにくいから離れてよ、お願いだから」
「えー…分かったよ」
子供は嫌々ながら離れていた。
そう言えば、願いがないと言うのなら「悪魔が自分から離れるように」と願ってもいいのに、Aは願わないな。「うるさい」とか「いなくなって」と言われるのはお願いでは無い。悪魔にとって願われていないのは願いではないからだ。彼はどうして「離れて」と願わないのだろうか。
――――― 一人が、寂しいから?
「なんてな、ははっ」
でも、もしそうであったなら。
「……やっぱり、俺はお前から離れない」
傍にいたいと思うから。
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時