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Aが口にする日本語には自分も気が付いていた。
はっきりと口にするわけじゃない、僅かな重さをもったそれ。意味は理解できない、けど確かに重いもの。
けれど、そこで何か行動に移さなかったのは、Aが呟く日本語が“韓国語が分からない”という理由で出てきているものじゃないと、どこかで感じ取ってしまっていたからだ。
自分も似たようなことをした日があったから。
＿＿隠しておきたいことを、でも抱えきれなくなったそれを、周りに知られずに吐き出すために。
JS｢チャニは、怖くない？」
DN｢こわい？」
JS｢だって、それを知ったらAが、もしかしたら隠そうとしてる事も分かっちゃうかもしれないでしょ」
DN｢…例えば？」
JS｢…すごくマイナスなこととか、Aが俺たちに聞かせたくない弱音とか？」
自分が口にしたそれをチャニは不思議そうに抱えた。自分の言葉に対する純粋な疑問から、段々と深刻な問題を考える顔になる。
１秒、２秒、３秒と視線が下へ下へと降りていく。
こんなこと言うべきじゃなかったと、“冗談だよ”と声を掛けようとした瞬間。５秒目だ。その目が自分を捉えた。
DN｢うん、でも」
JS｢……うん？」
DN｢聞こえてるのに分からなくて、分からないままAが独りで苦しむよりずっといいじゃないですか。
それにこれはAのためでもあるし、僕のためでもあるんです。だから、怖くない。大丈夫」
思わず、呆気に取られてしまった。
今の自分の顔を鏡に映したらすごく間抜けな顔をしていると思う。夜で、お互いの顔がなんとなくしか分からない暗がりでよかった。
JS｢…大人だねチャニは」
DN｢そうかな」
JS｢うん。すごく」
DN｢でも、前の僕じゃ考えられなかったから
きっと、ヒョンたちに似たんでしょうね」
開いていた単語帳をぱたん、と閉じて、表紙に書かれた“日本語単語 中級編”の文字を右手で撫でる。
それが“いいでしょう？”と首を傾げていたチャニとはまるで別人みたいに見えて、なんだか、なんだか少し取り残されてしまった。
そんな気分だった。
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作者名：柊
| 作成日時：2023年1月29日 9時
