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｢お姉ちゃん」
・｢ん？」
｢自転車どこ？」
・｢自転車？」
｢お墓参り行くときの。スンチョルの分がない」
もらった麦茶を３口くらい飲み込んだころ、何やら家の外で動いていたAが部屋に顔を覗かせた。何かと思えば、自転車を探していたらしい。
そうだ。日本に来た1番の目的はそれだった。
Aのおじいちゃんのお墓参り。
・｢え？うそー庭にあるよ」
｢表の庭？」
・｢あ、待って。倉庫に入れちゃったかも」
｢倉庫もなかったけど」
・｢ええ？」
てっきり明日行くものだと思っていたけど。
もう行くのかと首を傾げれば、日が暮れる前に行ってしまおうってAが言う。明日になったらすぐ出なきゃならないからって。
まあ、確かに。Aが冗談で言ったはずの一泊二日の弾丸旅行(？)は現実になって、代表が自分たちくれた時間は今日と明日だけだった。
日本と韓国の距離が近いからよかったけど、それなりに時間の制限は大きい。
｢じゃあ、歩いていくよ」
・｢時間かかるんじゃない？」
｢そんなに遠いんだっけ」
・｢結構掛かるよ」
｢でも２台ないし」
・｢２人乗りは？」
｢捕まる」
・｢ここ田舎だし、何かあったら日本語分からないフリして帰っておいでよ」
｢こんなしっかり日本語話してるのに？」
・｢スンチョルくんは話せないし、顔もハーフっぽいから大丈夫」
｢確かに」
「じゃあ、スンチョル前に乗って」とAに促される。
あ、まじか。２人乗りなんて子どもの頃以来したことがないけど。それこそ幼稚園のころに母親の後ろに乗せられていたくらいのものだけど。
促されるままに自転車に跨れば、そのまた後ろにAが乗った。
落ちなきゃいいな、なんて冗談なのか本気なのか絶妙に分からないことをAが言うからより一層不安になる。
｢じゃあ、行ってくるね」
・｢あ、A」
｢なに？」
・｢コスモス今ちょうど見頃かもよ」
｢あぁ、そうだっけ」
・｢久しぶりに見てきたら？」
｢うーん、そこまでの体力はないかも」
・｢…あ、そう？」
｢うん」
・｢まぁ、あそこも結構遠いもんね」
両手を腰に当てて、ヌナが分かっていたとでも言うように息を吐く。Aはまた“うん”とだけ頷いて「じゃあ、行ってくる」って自分の腰に腕を回した。
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作者名：柊
| 作成日時：2023年1月29日 9時
