[wrwrd]青に溶ける (ページ7)

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「トントーン、書類持って来たで」

ノックもせず砕けた口調で扉を開ける。上下関係も殆どないに等しく、かつ彼らが仲良くなければ到底なし得ない言動である。

「お前、ノック位せぇよ……まあええわ」

書記長は溜息交じりにへらりと笑う鬱様に目をやった。正確にはその腕の書類を見て赦したのかも知れないが、恐らく気の知れた仲だからそうしたのだろう。

「大先生お前、『缶詰の日』やないと仕事せぇへんのか」

「何其の『缶詰の日』って……あー……」

知らない単語に首を傾げるも、意味が解ったのだろう、相槌とも何とも取れない声を出した。

「まーええわ……之でもう殆ど終わりか？最近の業務」

「もう殆ど終わらしたで！」

にへらと笑う鬱様に、「普段からそれくらいしてくれ」と溜息交じりの御小言を零す書記長。全く同意見だが、其れは云わないでおこう。

「もう毎日『缶詰の日』にならへんかな」

「それは僕が死ぬんで……」

若干声が震えて居る。したくも無い仕事を強制的にさせられると言うのも相当な仕打ちだろう。まあ自業自得なので、仕事への態度が変わるまでは辞めるつもりは一切ないが。

冗談やで、と言いながらクリップの色と内容などでさらに仕訳けて行く書記長の声色はとても冗談とは思えなかった。
同感だったようで、声色が冗談ちゃうで、と鬱様も呟き、寒気がしたように腕を擦っている。

「やー……此奴の補佐官が優秀でガチで助かるわ。此奴ホンマに仕事せぇへんからな」

眉間を指で解しながら云う書記長に、「恐縮です」と頭を下げる。優秀さの度合いで言えば、其の言葉を吐く書記長は比べ物にするのも烏滸がましい程に優秀なのだが。

「あげんよ？」

「お前の所に居らんかったら大先生につけた意味ないやんけ」

呆れ声で言いつつ、書類に目を落す。そろそろ邪魔になるな、と上司の袖を引く。無言ながら意味を解った様で、「じゃ俺帰るわー」と呑気な声で部屋を出た。私も一礼して退室する。

「疲れたー……なあ、もう仕事終わりにせぇへん？」

眉を下げて甘えるように囁いた。足は止めないでする会話とは言え、書記長の耳に届いて居たら額に青筋でも立てかねない。

嗚呼いや、でも今日は殆どの業務を消化したはず。とすると、何時も仕事をそこそこに抜け出すにしても、今日の分と明日来る書類の最低限の分位には手が回るだろう。

何より、余り詰めるとやる気が之から起きなくなる。

其処迄考え、仕方ないですね、と肯いた。