[wrwrd]青に溶ける (ページ8)

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紅茶を一口飲んでから、小さなクッキーを口に含んだ。ほろりと崩れる感覚は、クッキーと云うよりスノーボールに近かったが、矢張り国御用達となれば味が違う。

正直私の様な部下が口にして良いのか判らない値段になっているのだが、鬱様がニコニコと進めて来るので、断るのも気が引けて、結局口にしてしまう。柔らかい甘さと心地いい食感が癖になる。

食べ過ぎるのは流石に良くないので、程々にした。自分ばかり食べては、品もないし、立場を弁えていない。

「やー、めちゃめちゃ頑張ったわー」

「お疲れ様でした」

リラックスした様子で伸びをする鬱様に労いの言葉を掛けた。補佐官としての仕事は確かに多い。が、幹部の仕事量と比較してはいけないだろう。

溜め込むのが悪いとは言え、あの山を一日で片付けたのは評価すべきことだろう。これに懲りてちゃんと継続した仕事を続ければいいのにと思うが、そうならないと言う事は身に沁みて解っているので、小言を零す事も無い。

因みに、本当に気が載らない時に缶詰めにすると、二日間缶詰にしたりすることもある。そうなると、本当に死人なのか判らない程生気を吸い取られたような顔で仕事をされるので、あれは本当に駄目だ。

「もう暫く書類や見とうないわ」

「明日もご執務がある事をくれぐれもお忘れなきように」

釘を刺しておく。明日之でサボられると、ある程度締め切りが遅い物を最後の方に廻したとはいえ、又一週間もしない内に缶詰めにするかもしれない。

される方はもっと地獄だろうが、する方だって色々と面倒なのである。

「厳しいなー……もっと楽に行こうや」

灰皿に煙草を擦る。朝掃除したばかりだと言うのに、複数の吸い殻が灰皿の底を埋め尽くさんばかりだ。

「どうにも性分でして」

性分ねえ、と紫煙を見詰る鬱様は、この言葉が妙な物だと解って居るのだろう。此の人はそういう人だ、と人知れず苦笑した。

私だって別に、仕事が好きで好きでやって居る訳ではない。人間だから少しは楽をしたいと思うし、出来る事なら鬱様の様にとまでは行かなくとも、仕事を放り出して遊んでしまいたいと思う事も無い訳では無い。

だとしても、幹部も補佐も仕事をしないでは、この国の中枢が、ひいてはこの国が稼働しなくなってしまう。

この国の歯車として此処で働いている。期待を寄せ、補佐官にまで抜擢していただいた。

そのことに誇りを持って居る。

其れだけだ。