42話 ページ48
訪れたお店では、個室が予約されていた。
ディナーならば相当の値段がするのだろうと容易に想像できる、小洒落たレストランだ。
「いかがですか?A、お店の雰囲気は」
「僕一人じゃ、一生来なさそうな場所だってことだけは分かるね」
「言えてる〜。だからぁ、オレらが連れてきてあげたんだよ」
向かいに座る男はそう言って、まるで悪戯が成功した子供のように唇が弧を描いた。
実際、何も言わずに連れて来られたのなら、ドッキリだと言われても納得できる程に普段の自分とは噛み合わない店である。
サラダにパスタ、ドリンクと食後のデザート。
ランチセットとしては至ってオーソドックスな組み合わせのそれは、しかしながらチェーン店などで食べるような大衆向けの味付けとは一線を画している。
前菜のサラダでさえ、盛り付けの鮮やかさと普段では味わえないような絶妙なドレッシングとの組み合わせが新しい。
メインに届いたパスタもまた、味わいのコク深さがまるで違う。
僕が頼んだパスタはボロネーゼであったが、野菜の旨味が溶け出したようなソースに肉の旨味が合わさって、一口食べる度に素材の海に溺れるかの如くパスタの味が身体中を蹂躙していく。
ただ食材を生かすだけでなく、何倍にもその良さを跳ね上げさせるようなその技術には、思わず感服してしまう。
複雑な味わいに、体の隅の隅まで侵されていく。
料理の味も────二人の思惑も、僕には底が見えないぐらいの未知の領域だ。
食事に関してなら、料理人を目指すわけでもないのだから、美味しければそれで良いのだろう。
────でも、二人が揃いも揃って企む何かは、分からないで済まされる気がしない。
寧ろ、僕が今まで気付いてこなかった何かを、無理やりにでも思い知らせようとしているみたいで。
(デート、っていうのがあからさま過ぎて……そのまま読み取るのが、何となしに怖いんだよな)
まるで、恋人のように扱われる僕。
二人の望むままに着飾って、美味しい食事で身も心も満たすように甘やかされて。
────或いは、僕が純粋に女性だったなら、そのままの意味で受け取ることもできたのかもしれないけれど。
くるりと巻いたパスタを口に頬張りながら、思考はそこでシャットアウトした。
ミルクも入れずに飲むコーヒーは、黒くて、そして苦い。
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藤川秋(プロフ) - ララーサさん» ララーサさん、はじめまして。ご指摘ありがとうございます!確認したところ、確かにフロイドの方が正解でした。完全に見逃してたのでありがたいです。感想もありがとうございます、とても励みになります! (2020年11月23日 21時) (レス) id: 93e3af9b0c (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - ↓の9話です! (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - 僕の勘違いだったやごめんなさい。主人公とジェイドくんのやり取りで、「僕とジェイドが?」という所「僕とフロイドが?」だと思います。間違っていたらごめんなさい!あと、この物語とても面白いです!頑張ってください! (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
藤川秋(プロフ) - イルカの生姜焼きさん» イルカの生姜焼きさん、初めまして。主人公は基本的に、いい子ではなく、少し人間味の欠けた人物に敢えてしようと思っていましたので、そう言っていただけるととても嬉しいです!素敵なコメントと応援をありがとうございます。 (2020年6月14日 14時) (レス) id: d1eae4f705 (このIDを非表示/違反報告)
イルカの生姜焼き(プロフ) - 18話の一番最後で主人公の"興味がないことだ"に対して凄いヴィランぽいっと思いました。上から目線になってしまいすみませんがこれからも頑張って下さい。 (2020年6月14日 11時) (レス) id: ca6db90150 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤川秋 | 作成日時:2020年5月26日 15時