23話 ページ25
僕は人生で二度、双子と取引をしたことがある。
取引といっても、書面を通していないただの口約束ではあるのだが、下手な取引よりよっぽど効果はあるだろう。
一度目は、彼らと初めて出会った時のこと。
関わらない方がいい相手だと思う反面、珍しく見つけたお気に入りの場所を易々と手放す気にもなれなくて、駄目元で持ちかけた取引だ。
それは、せっかくの場所を取られた気分になったのか、微妙に機嫌が悪そうだったフロイドを鎮めるためのものでもあった。
「僕が二人を楽しませることができたら、ここに居るのを許してくれる？」
そう言った僕に、何かを含んだような笑みを向けてきたことは、今でもよく覚えている。
二人にとっての僕は、玩具のようなものだとずっと思い続けてきたその原点は、ここから始まっているのだ。
結局それは、双子にとっては既に過去のものとなっていたようではあるが。
そして、二度目の取引は────。
(ああ────そうだ、思い出した)
それは、いつの日だったか。
運悪く鮫に追いかけられしまって、必死に逃げ回っていた時のことだ。
ようやく岩壁の抜け穴の中に逃げられるというところで、近くの岩に鰭をぶつけて怪我をしてしまったフロイドを、僕は咄嗟に覆いかぶさるようにして庇った。
それは僕にしてみれば、ちゃんとした勝算があってしたことなのだけれど、捨身の行動を取ったようにしか見えなかったらしいフロイドは、僕に対して激しく怒ったのだ。
死にたくないとは思わないのかと、彼は尋ねてきた。
自分のことが大事だと思わないのかと。
僕はその問いに、頷くことができなかった。
息苦しそうに、何かを噛みしめるように瞳を揺らす彼の顔を、この時僕は初めて目にした。
その瞳に、心からの気持ちを込めて答えてやれないことは、人の胸の内を酷く締め上げるものだろうということも、この時初めて理解した。
僕は、人としての心というものが生まれながらに欠けている。
欲の無さからか、己を深く認識できずに、どこか人事のように眺めてしまっている。
大切にしたい何かや、なりたい自分というものは何処にも無くて、ただ生き残ることができれば幸せでいられるのだろうと、漠然とした思いで生きてきた。
それは時に、誰かを深く傷付けることもあるのだということを、彼らを通して僕は初めて知ったのだ。
────だから僕は、他でもない二人のために、人生で二度目の取引を持ちかけた。
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藤川秋(プロフ) - ララーサさん» ララーサさん、はじめまして。ご指摘ありがとうございます！確認したところ、確かにフロイドの方が正解でした。完全に見逃してたのでありがたいです。感想もありがとうございます、とても励みになります！ (2020年11月23日 21時) (
レス) id: 93e3af9b0c (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - ↓の9話です！ (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - 僕の勘違いだったやごめんなさい。主人公とジェイドくんのやり取りで、「僕とジェイドが?」という所「僕とフロイドが？」だと思います。間違っていたらごめんなさい！あと、この物語とても面白いです！頑張ってください！ (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
藤川秋(プロフ) - イルカの生姜焼きさん» イルカの生姜焼きさん、初めまして。主人公は基本的に、いい子ではなく、少し人間味の欠けた人物に敢えてしようと思っていましたので、そう言っていただけるととても嬉しいです！素敵なコメントと応援をありがとうございます。 (2020年6月14日 14時) (レス) id: d1eae4f705 (このIDを非表示/違反報告)
イルカの生姜焼き(プロフ) - 18話の一番最後で主人公の"興味がないことだ"に対して凄いヴィランぽいっと思いました。上から目線になってしまいすみませんがこれからも頑張って下さい。 (2020年6月14日 11時) (レス) id: ca6db90150 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤川秋 | 作成日時：2020年5月26日 15時
