女に生まれたことを. ページ5
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どうしても男は生まれない。
残っている唯一の継承者は、女の俺だけ。
襖の隙間から、悩みを抱える両親の背を見た。俺は嫌だった、二人が悲しんでいる姿を見るのは。笑っていて欲しかった、いつまでも俺の自慢の親であって欲しかった。
当時十歳。
この幼い頃の俺の純粋な思いが、自ら茨の道を往くことになるのだが。
「...私が後を継ぐから。男として生きていくから。それでいいよね、父さん、母さん」
「...A...お前...」
「A...あなたは、それでいいの...?
いくら心を男と決めても、体は変えられないわ。それがあなたをこれからどれだけ傷つけ、現実を突きつけるか...」
「“俺は”大丈夫。腹を括ったから。
...御指導、宜しくお願いします」
この日から俺は男として生きていくことを決めた。
毎日辛い鍛錬、口調を変えること、態度を堂々とすること、服装を変えること。
他にもいろいろ、男として生きるための訓練をした。
そして時は経ち、俺が十三歳の時。
最終選別合格、それから約二年が経った十五歳で柱に任命。
柱に任命され、五ヶ月くらい経った頃だろうか。
父が病で死亡。
言伝が来た時、俺は涙が出なかった。
父が嫌いなわけないし、むしろ心から尊敬していて大好きな自慢の父だった。
涙が出ない自分が怖くなった。
葬式で母が声を殺して泣いている背を見て、俺が守らなければと心に誓った。
葬式が終わり、柱合会議へ顔を出す。
周りはみな驚いた顔をしていた。
不死川が声を出した。
「おい...稲荷崎ィ...
...なんで泣いてやがる...?」
自分でも気が付かぬ間に、涙は頬を伝っていた。
俺は自分の心と向き合っていなかった。
どこか心の片隅で、父は死んでいないと思っていたのかもしれない。
その晩、俺は声を殺して自室で泣いた。
あの葬式の日、母が棺桶でうつ伏せで泣いていたように。
次の日、お館様に呼ばれた。
俺は全てを話した。自分は女だったこと、男として生きてきたこと、父が亡くなったこと。
お館様は子供をあやす様な表情で、微笑みながらこう言ってくださった。
「...今までよく頑張ったね、A。
そんなにも幼い頃からよく辛い思いに耐えた。
きっと色々不便してきただろう。色々なことを言われただろう。
父が亡くなり、不安になっただろう。
鬼殺隊はそんな君を受け入れてくれる。女ということ、隠していたいのなら私は秘密にしておこう。
...此処が君の心休める居場所にならんことを。」
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作者名:たらんら | 作成日時:2019年10月7日 23時