ぜろ ページ50
結果として､θ国との戦争は戦わずして勝った
損失を負ったのは相手だけ
否､たった1人帰ってこなかった者がいた
「嘘や､うそやぁッ！！」
「そん､な…」
ギギは､帰ってこなかった
齢9つにして､その短い生に幕を閉じたのだ
生まれた国と共に､小さな体を散らした
「…」
救出された外交官から､ヴィリスはある物を手渡されていた
それは､鈍く光るドッグタグ
ギギが唯一､身に付けていた物だった
「…ギギ､お前は…」
ハノの元に行ったのか､という言葉は飲み込んだ
ぽたり､ポタリと涙が溢れ出す
いつも私は､後悔ばかりだ
戻って来ないギギが心配になり隊長はインカムに通信を繋げた
だが､無音
ーギギが爆発に巻き込まれたー
そう理解するのに時間は掛からなかった
「まさ､か…」
外交官が隊長の顔を見て青褪める
視界を向けた先は黒煙に覆われ､大声で何かを叫ぶのが聞こえてくる
死んだのか､あの子が
「うそ､だろう…」
ギギは死んだ
その葬儀は軍関係者全員で行われ､そこにはヴィリスの弟達も呼ばれた
あの後､運良く見つかったギギの義手が､遺影代わりだった
爆発によって歪になった金属の義手は､今も尚､光を受ければ鈍く光る
「ッ嘘や…帰ってこいや…！」
「いややぁッ…いややギギぃ…！」
「ッ…なん､で…！」
末の2人が中身の無い､花々に囲まれた小さな棺にしがみつき､2ギギと特に仲の良かった軍曹が2人を抱き締めるように棺に寄り添っていた
ギギの義兄達も､最前列で涙を流しながらそれを見ていた
「ッ､おれ､まだ教え､足らへんぞ…！」
「いっぱい､育てたかったのに…」
各々が､後悔を呟いていると､ふわりと風が頬を撫でる
俯いていたヴィリスは､その風に顔を上げた｡
その視線の先には､もう会えない筈の､愛しい人の姿
『ーヴィリス』
「…ハノ？」
黒の中に赤が揺らぎ､白の中に青が光る
『大丈夫､逢えるよ｡必ずね』
「…は」
「俺は､決めたゾ」
ぽつりと少年が呟く
「俺は､国を建てる！悲しい犠牲が出ないような！死にたいなんて､生きたくないなんて思わない国を！！」
灰銀と真紅の双眸が輝く
悲しみに暮れながらも､その瞳の奥には､煌々と燃える炎があった
「…」
『な？』
「…逢える､かな」
『逢えるよ､僕らが逢えたんだ』
そう言って､風はヴィリスを包み込んで､そしてサラサラとすり抜けていった
この日
独りの死が
後に大国となる種を芽吹かせた
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
