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「俺は､恩を返したい」
決して大きい声ではない｡
ましてや､通る声でもないのに､ギギの言葉はその場にいた全員の耳に届いた｡
どこかの兵士が､頬に涙を伝わせた｡
「…ギギ､お前は何として死ぬ」
「…殺戮兵器として､感情の欠片すら持たない､ただの傀儡として」
ー全てを終わらせる為にー
そう言って､ギギは国王に跪いた｡
細く小さい､頼り無い背中には､消える事の無い幾つもの傷｡
彼女は､これを背負って死んでいくのだ｡
それが､彼女の覚悟でもあるのだ｡
「…そうか…」
「…」
「…これより！作戦を開始する！！先遣隊に､最大の敬意を！！」
国王のその言葉に､直立だった兵士たち､将校たちが各々武器を抜き放ち､天に向けて掲げ､雄叫びを上げ始める｡
それは腹に響き､身体が震える程だった｡
「ギギ」
「！」
「やり遂げなさい､その覚悟を胸に」
「…Δ国に､永きに渡る幸福を」
そう言って立ち上がり､暗殺部隊の元へと走る｡
ガラヴァ中将は横に避けていて､暗殺部隊は既に出発できる状態だった｡
「…武功を､祈ります」
「…」
暗殺部隊が走り出した瞬間､中将はそう呟いた｡
俺は何も言わず､何も返せず､暗殺部隊と共に場内から飛び出した｡
「ーギギ！！」
「ッ？！」
途中に用意されてあった移動用の馬に乗り､作戦を聞きながらθ国へ向かっていると､聞くことの無い筈の声が響く｡
振り返ると､ヴィリスと､軍曹､ショッピ､チーノ､シャオロン､グルッペン､鬱､アルバートが馬でこちらに来ていた｡
「…銃を」
「は､けど」
「早く」
「…分かった」
隊長から拳銃を貰い､先頭を行くヴィリスの乗っている馬の足元を狙い､撃った｡
馬は驚き､混乱して暴れて､ヴィリス達は止まらざるを得なくなった｡
「ギギ待って！！」
「帰ってきてぇや！」
「ごめん､ごめんギギ！！ひどい事､言ってごめん！！」
「お願いやから､戻ってきてくれ！！」
「お別れなんて､俺らは許さへん！！」
「お願いだから､戻ってぇや！！！」
軍曹､チーノ､シャオロン､グルッペン､ショッピ､鬱の声を背中に､そのまま走り去る｡
どんどん遠くなっていく声に､俺は視界が歪み始めた｡
「…いいのか」
「ッ､ゆらぐか､ら」
「…着く前までに､その面治しとけよ」
隊長がぽん､と軽く頭を叩き､俺の鼻筋や頬を伝って涙が止まらなくなる｡
嗚咽こそ漏らさなかったが､息が苦しくて､頭も痛かった｡
誰も､何も言わなかったのが､救いだった｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
